ディーン・フジオカ、初プロデュースで実感した日本映画の現在地 挑戦の数々を振り返る

ディーン・フジオカが実感した日本映画の今

 純粋な日本人、とは何だろう。“純粋”という言葉をパーセンテージで表すとして、それが100%なら、“100%日本人”という言葉が指し示すものは何なのか。俳優やミュージシャン、モデルなど、多岐にわたって活躍するディーン・フジオカが企画・プロデュース、そして主演を務める『Pure Japanese』が1月28日に公開された。

 ディーン扮する主人公の立石は、日本文化に傾倒した孤独なアクション俳優。そんな彼が、中国人ブローカーと地元のヤクザに狙われ、執拗な嫌がらせを受けていた女子高生のアユミ(蒔田彩珠)と出会ったことで、その目に狂気が宿っていく。今回、本作の企画から「挑戦続きだった」と語るディーンに、作品のテーマ、そしてプロデュースを経て実感した日本の映画業界の制作に関する問いまで、余すことなく話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

「まず、自分が現在の日本の社会構図、輪郭を把握しなきゃ」

――早速ですが今回、本作を企画をするにあたっての最初のアイデアは何だったのでしょう?

ディーン・フジオカ(以下、ディーン):最初に、現代社会において「日本人の定義はなんぞや」というところからスタートしました。やはり、両親とも日本人だけど、日本に住んだこともなくて、国籍も日本じゃないし、言語も日本語が喋れないという方は今、普通にいらっしゃるじゃないですか。その逆もそうだし、全く日本と縁がないけれど、日本で生まれ育って、日本語学校に行っている方もいらっしゃる。そうなったときに、今の日本社会とは「日本語人社会」だと思うんですよね。つまり日本語というOSを搭載している人たちがこの社会の一員である。と。それは別にその人が多言語話者だろうが、日本語だけだろうが、全てカバーする。そうなったときに、言語が持つOSとしての特性みたいなものってあるじゃないですか。我々がコミュニケーションをする道具として言語を使っていると思いきや、実は我々自身が言語OSという集合体みたいな存在である。そして言語OSが、生命体が自分のDNAを残すために一人ひとりの人間を乗り物、器として使っているのだとしたら、どうなんでしょうね、というところからこのストーリーを作り始めました。

ーーなるほど。

ディーン:そう考えると、本作に登場する検査キット(PJキット)はパロディというか、ギャグですよね。だから、おもちゃみたいなパッケージで作ろうと思いました。人によってはそれにすごく振り回されたりとか、それで商売、金儲けをしようと考えたり、それを自分が持ち得なかった「自分」というアイデンティティーの後ろ盾にしてみたりとか。いろいろなドラマが生まれると考えたので、そこからスタートさせました。あとは、立石という主人公は名前をつける前から、不条理みたいなものの中で矛盾に押しつぶされて、いけにえみたいに消えていく男にしたいなと思っていたんです。彼の結末も、最初から描いていたものです。

ーー立石の設定が最初にできていたと。

ディーン:次に、ロケーションを絶滅した動物の剥製が並んでいるような博物館にしたかった。人工的に“ピュア”というものを突き詰めた、「ピュアジャパニーズ」と言われているようなエッセンスのあるものが並べられている場所。要は、日本に全く興味ない人が見ても、ニンジャ、ゲイシャとか、スシ、サシミみたいな感覚で、「日本」を感じられるような。それを接客業として、アミューズメントパークで忍者ショーなどをやっているような人の、日常の楽屋の様子から作ったら面白いんだろうなと考えて、映画を作っていきました。

――私自身、日本で生まれ育ったミックスという立場で本作を非常に興味深く拝見しました。その日本人の定義について考え、問いが生まれたきっかけは何でしたか?

ディーン:これまで俳優やフィルムメイキングを、国がどこであれ、自分が好きだから仕事
として携わってきました。好きでやっていることって、もっとうまく良いものを作りたいと思いますよね? 「いい作品、作りたい」って。それは音楽であれ、映像であれ、自分が何かを作るとしたら当たり前の衝動だと思っています。では、良いものを作ろうと思ったときに、良いものが作れない理由はなんだろうと考えると、やはりいくつかの直接的に関係する理由があって。それを解決するためには、まず、自分が現在の日本の社会構図、輪郭を把握しなきゃいけないと思ったんです。それで、同じフィルムメイキングではありますが、0から1を作るところ、企画、プロデュースするところからやらないと前に進めないなと考えました。しかし、様々な企画を書いても、なかなか成立しないわけですよ。その中で、エンターテインメントとしても成立するし、「自分がこれをなぜ世に生み出すのか」という意味も明確に持ちながら、経済的な活動として成立するという、この三方よしの状態に持っていけた最初の企画が『Pure Japanese』でした。やはり、こういうのは時代とのタイミングでもあると思うんですよね。なので、決して1番最初に作った企画が1番最初に成立させられなくてもいいかなと。現在進行形で、ほかの企画も進めていますが……。

――お話しいただいた輪郭を把握するプロセスにおいて、具体的にどういう形で辿っていったのかお聞かせください。

ディーン:簡単に言うと、構造の力を理解するということですね。構造の力というのは、物事の流れ、水の流れが上から下に行くみたいなことと一緒で、その流れを理解することがすごく大切です。やはり、文脈ってあるじゃないですか。なぜこうなったのか、今この日本になったのはなぜかというのを遡って考えたときに、いろいろな文脈が出てくる。ユニオンという概念が存在しない日本で、どうして時間というものに対する概念も一貫性がないのかとか、全てにおいて、関係しているんですよね。

ーー既存の構造のルーツを遡っていったと。

ディーン:なので、まずそれを理解するために、体当たりで飛び込んでいく。そこからですね。ほんとに一つ一つのプロセスで、物事の進行の仕方という所に、その文化、社会の個性も出ます。故に、自分がこの映画において、「暴力」というものをテーマにしたのは、それと同じ理由なんです。これは、ケース・スタディ・ジャパニーズだから、文化の1つの側面としての「暴力」を捉えました。例えば、武器のデザインについて考えた時、目的は殺傷するためだけど文化によっては形状が違うわけですよね。あと、武力や使い方も違うし。日本だと切腹、腹切りと、なかなか特殊な文化がありますが、なぜそういうものがあるのか。逆にそこから、その文化の特性・性質みたいなものがあぶり出されるような、にじみ出るような形にしたかったので、今回“アクション映画”というプラットフォームを選びました。実験ですね。

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