『元彼の遺言状』を読み解く鍵は『オリエント急行の殺人』か 終幕へ向けて面白さが加速

『元彼の遺言状』終盤へ加速

 終盤戦に突入し、ようやく面白くなってきた。6年前に起きた殺人事件で容疑者となり、名前を変えて逃げ続けてきた篠田(大泉洋)。逮捕されたものの、すぐに麗子(綾瀬はるか)は津々井(浅野和之)の協力を得て保釈させると、自ら“金にならない”刑事弁護を買って出る。6月6日に放送された『元彼の遺言状』(フジテレビ系)第9話は、篠田の無実を証明するために事件の起きた漁村を訪れ、過去の扉を開いていくエピソードだ。

 リストランテ「プロメッサ」。そこで料理人として働いていた篠田こと田中守は、実業家の小笠原(田山涼成)が主催したパーティの準備のために徹夜をし、パーティの途中で店の外で眠りに落ちた。目を覚まして一旦店に戻り、再び眠りから覚めるとすでにパーティは終わっており、店内には小笠原の死体があった。そして掛かってきた一本の電話によって逃亡生活に入ることになったという。6年ぶりに訪れたその地で、住民たちと再び顔を合わせることになった篠田。しかし住民たちは「あの事件はもう終わっている」と声をそろえるのである。

 当時篠田が店の外で眠っていたことを誰も証言してくれず、出てくるのは不利な目撃証言ばかり。それでも寝ている間に誰かがかけてくれたストールが糸口になるのではないかという話になった際、篠田が挙げるのはウィリアム・アイリッシュの『幻の女』だ。

 ロバート・シオドマクのノワール映画でも知られるこの小説のように、無実を証明してくれる人物を探す過程は確かに描かれつつも、それはこのドラマの既定路線。最初に想起されたミステリ小説はあくまでも“取っ掛かり”に過ぎず、その先にまた別のミステリの要素が絡み合っていく。

 その別のミステリは一体何だろうか。この話自体が次のエピソードへと持ち越されるので今回の劇中でははっきりと示されることはないが、ここでは終始アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』のような空気が流れ続ける。閉塞的な漁村、明らかに何かを隠している住民たち。被害者は守銭奴で住民の大半が彼から借金をしており、さらにリゾート開発を推し進めようとしていたこと。あえて示されずとも、あのあまりにも有名なラストにつなげようとしているかのように、住民たちの不審な動きが描かれ続ける。むしろこれらがミスリードではない方が腑に落ちるあたり、この題材はミステリとは違う旨味を持っているのだろう。

 それでも終盤の古書店のシーンでアイリッシュの『幻の女』の単行本の下から出てくるのは、クリスティの『検察側の証人』である。次回のエピソードが裁判を描くとなれば、その“取っ掛かり”となるのはこの法廷ミステリ王道しかないだろうと思っていたが、その通りであった。仮に『検察側の証人』をそのままなぞるストーリーになってしまったら、6年前の事件の顛末は……ということになってしまうわけで、そこはやはりクライマックスの大きな事件にふさわしく『オリエント急行の殺人』に帰結させても充分に納得がいくのである。

■放送情報
『元彼の遺言状』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:綾瀬はるか、大泉洋、生田斗真、関水渚ほか
原作:『元彼の遺言状』新川帆立(宝島社)
脚本:杉原憲明
演出:鈴木雅之、澤田鎌作
プロデュース:金城綾香、宮崎暖(「崎」はたつさきが正式表記)
音楽:川井憲次
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/motokare/
公式Twitter:@motokare_cx_
公式Instagram:@ motokare_cx

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