神尾楓珠が吉田玲子脚本のSFドラマにハマる 『17才の帝国』は代表作になるか?
いよいよ6月4日の放送で最終回を迎える『17才の帝国』(NHK総合)。4月始まりの連続ドラマはなかなか評価の高いものが出てこなかった中、5月にスタートし、オリジナリティあふれる設定と緻密な構成、そしてキャスティングの上手さで評判を呼んでいる全5話のSFサスペンスだ。
数年後の近い未来、日本経済が低迷する中、海に面した地方都市・青波市がAIを活用した政治を行う実験都市「ウーア」となり、従来の市長に当たる“総理”というポジションに高校生の真木亜蘭(神尾楓珠)が選ばれる。時の首相・鷲田(柄本明)から全権を与えられ、「思い切った改革」を要請された真木は、いきなり市議会を廃止。市の職員も3年間で50%削減すると決め、多くの市民から反発される。真木をフォローする立場である内閣官房副長官の平(星野源)は、硬直した日本の政治を変えるためこのプロジェクトを成功させたいと躍起になっていたが、かつて自分の秘書が死んだ事件に真木が絡んでいることを知った鷲田総理から「真木を切れ」とプレッシャーをかけられる。また、真木にスカウトされて補佐官になった高校生・サチ(山田杏奈)は、真木が子供の頃好きだった少女をAIの「スノウ」として蘇らせていることを知り、その少女が自分に似ていることにも失望して補佐官を辞めたいと申し出る。
最終話で気になるのは、鷲田に見離され前市長の保坂(田中泯)らに追い詰められた真木がこのままウーアの総理大臣でいられるのかということ。同時に、利権政治にがんじがらめになっている平は自分の意志を貫けるのか。真木とサチの恋愛感情も絡んだ関係はどうなるのか。そして、「もっとウーアを理想の世界にしよう」と真木に語りかけるAIスノウは暴走を始めたかのように見え、AIが人間を超えてしまうシンギュラリティが起こるのか?とも思わせる。
この刺激的で斬新な物語を作り上げた吉田玲子の脚本、凝りに凝ったビジュアルワークと音楽など、作品の優れたポイントはたくさんあるが、まず、この企画は主演の神尾楓珠なくしては成り立たなかったであろう。17才の真木亜蘭はプログラミングの才能があり、権力者に忖度せず市民の幸福度を上げる政治を行うという理想を抱いている。いわば早熟の天才で、美しく整った顔は頭脳の優秀さをそのまま表わす。天才とはこうあってほしいという顔をしているのだ。始めは冷静沈着で完全無欠に見えたが、次第に彼がこうなった過去が明かされていく。真木は、子供の頃に貧乏だといじめられており、シングルマザーだった母を亡くし、好きだった女友達を亡くし、その後、高校に通いながら祖母の介護をしていたヤングケアラーで、その人生ハードモードな家庭環境ゆえに政治に興味を持った。神尾は、序盤はクールな天才として登場し、徐々に表情豊かになり人間味を見せていくさまを繊細に演じている。最終話ではもっと感情をあらわにするシーンが見られるかもしれない。
脚本の吉田玲子が活躍の場とするアニメの世界観を目指したというだけあり、本作の設定は現実離れしていて、シャープかつスケール感がある映像も新海誠作品のような印象がある。そんなアニメライクな実写ドラマに漫画から抜け出してきたような美形であり、若手俳優の中でもかなりのアニメ好きとして知られる神尾が主演しているのが面白い。神尾は「(このドラマは)僕の好きな『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の脚本家である吉田玲子さんの脚本なのが嬉しい」とコメントしている(※)。