“推し”を大事にする日本には合わない? 『チップとデールの大作戦』の賛否両論を分析

 5月20日からディズニープラスにて、オリジナル長編アニメーション『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』が配信開始された。本作はアメリカのテレビアニメ放送枠「ディズニー・アフターヌーン」で放送されていた、『チップとデールの大作戦』を原作に制作されている。過去いくつもの短編作品に登場した、ディズニーの人気キャラクター・チップとデールの長編映画デビュー作でもあり、ディズニーファンの間でも楽しみにされていた作品だ。

チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ

 しかし、鑑賞したファンの間では賛否両論が巻き起こり、はっきりと好き嫌いが別れてしまっている印象を受けた。特にディズニーファンが問題視している箇所は、人気キャラクターであるラプンツェルの人形の首が取れてしまうシーンと、ヴィランとして描かれるピーター・パンのキャラクター崩壊だろう。本作を配信日に観たディズニーファンたちはSNSで、「ピーター・パンとラプンツェルのファンは観ない方がいい」と注意喚起を行っていた。また本作に対して否定的な意見や拒否反応を示しているファンは、同じディズニー作品である『シュガーラッシュ:オンライン』(2018年)や『トイ・ストーリー4』(2019年)を引き合いに出し、「これらが苦手な人も視聴は難しい」と話している。

 私が今回特に注目したのは、作中「スウィート・ピート」と呼ばれるヴィランのピーター・パンだ。本作は、1988年に公開された実写とアニメの融合作品『ロジャー・ラビット』の系譜を継ぎ、アニメーションで活躍するキャラクターたちは役者で、現実世界を生きているという設定を採用している。そんななか、現実を生きる“永遠の子ども”であるはずのピーター・パンは歳を取り、それと同時に業界から捨てられてしまったというバックボーンを持つ。本作のピーター・パンは、1953年公開のディズニー作品『ピーター・パン』に登場したキャラクターと同一人物。一方、アニメ『ピーター・パン』でピーターを演じているのは、ディズニー社と子役契約を結んでいた役者のボビー・ドリスコールである。

 ドリスコールはディズニーの実写映画『南部の唄』(1946年)や『宝島』(1950年)などに出演した子役であり、アニメ『ピーター・パン』ではピーターの声優を務め、キャラクターデザインの元にもなっている。ディズニー社から子役として重宝されていたドリスコールだったが、青年になる頃突然ディズニー側から契約を打ち切られ、以降の人生は挫折の連続。次第にドラッグ漬けとなってしまい、31歳という若さでこの世を去った。本作に登場するピーター・パンのバックボーンは、おそらくドリスコールが辿った顛末を下地に描かれているのだろう。

 本作で監督と脚本を務めているのは、アメリカのコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』で結成された人気コメディチームである。『サタデー・ナイト・ライブ』では非常に皮肉の効いた笑いが扱われており、所謂“アメリカのブラックジョーク”が売りとなっている。ブラックジョークは、そもそも元となるネタを知らないと笑いようがないものも多く、本作で描かれるピーター・パンもその類だろう(だとしても、ディズニー作品内で扱うには非常にセンシティブなネタだと感じる)。

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