『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』の衝撃 なぜ過激な内容に?

『チップとデールの大作戦』なぜ過激に?

 「チ、チ、チ、チップ&デール」と、軽快なリズムに合わせて歌われる楽曲をご存知だろうか。アメリカや日本などで、1989年から1990年に放送されたTVアニメ『チップとデールの大作戦』の主題歌である。そんなTVシリーズが30年の時を越え、この度まさかの映画化を果たし、ポスト・マローンによって主題歌がカバーされ、現在ディズニープラスで配信されている。

チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ

 しかも、本作『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』は、単なる過去の作品を現代的な表現で描き直すのではなく、基になったシリーズとは全く異なる、大人向けの辛辣なコメディーに仕上がっていることに驚かされるのである。

 しかし、なぜ本作の内容はここまで過激なものとなったのか。ここでは、チップとデールのみならず、本作に登場するさまざまなキャラクターたちが巻き起こした、数々の衝撃の意味を解説していきたい。

 愛らしいシマリスのコンビ「チップとデール」は、もともと1950年代に、ディズニーの短編作品のなかに登場していた。1989年に開始されたシリーズ『チップとデールの大作戦』では、彼らが「レスキュー・レンジャー」として活躍し、仲間たちとともに毎回事件を解決するという、より現代的なキャラクターに刷新されたのだ。

 本作の世界観は、やはり大人向けの映画だった『ロジャー・ラビット』(1988年)同様、現実にアニメのキャラクターが存在し、普通の人間とともに共存しているというもの。この世界には「アニメーター」が存在せず、アニメキャラクターがアニメ作品に“実写”として出演しているという設定になっている。

 当時シリーズを観ていたのは、いま30代後半から40代前半となっている世代である。そんな観客のために、本作は大人向けが楽しめるように、まず世知辛いドラマが描かれていく。

 1990年まではTVシリーズが好評を博し、俳優として栄華を極めていたチップとデールだったが、現在チップはショービズ界を引退して保険会社の社員になって、寂しく飼い犬と暮らしているし、デールは過去の栄光にすがる売れないコメディー俳優として、後輩に軽んじられながら仕事を続けていた。そして方向性の違いからケンカをして、コンビを解消していた彼らは、ともに空虚な毎日を送っていたのだ。

 たしかにチップとデールは、ディズニーグッズのなかでも定番の人気キャラクターとなってはいるが、彼らが活躍する作品を観ている人は、年々少なくなってきているだろう。筆者は10年ほど前、知り合った20代前半の日本の女性が「自分の部屋にはチップとデールのグッズがたくさんある」と語るので、おとぼけのデールの方が好きなのかと尋ねてみたら、「どっちがデールとか、分からないから……」と、言われたことがある。

チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ

 本作で驚かされるのは、チップは2Dアニメーションのままだが、デールの方は新しい時代のメディアに対応するため、全身の手術によって3DCGの姿に変貌してしまっていることだ。コンビのそれぞれが手法の違う表現方法で描かれ、同じ画面に登場するのである。この常軌を逸した演出だけでも、本作のユーモアがぶっ飛んでいることが分かる。

 逆にリアルなのは、これまでの作品で“おとぼけキャラ”として登場していたデールは、じつはそこまでおとぼけではなく、カメラの前で意図的に“ボケ役”を演じていたという部分。日本の漫才でいえば、ツッコミとボケ役だったチップとデールは、漫才のコンビがしばしばそうであるように、芸能活動のなかで互いに複雑な感情を抱え、不仲になっていたのである。

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