『鎌倉殿の13人』と『平家物語』は対極な魅力の歴史劇に 壇ノ浦の戦いを中心に読み解く

『鎌倉殿』『平家物語』壇ノ浦の戦いの違い

 また、『鎌倉殿の13人』では平家側がごく少数の登場人物でしか描かれなかったこともあり、安徳天皇(相澤智咲)の入水が決まるまでの工程は、宗盛(小泉孝太郎)が安徳天皇のほうを見つめるという動作のみで示され、その後、多くの女性たちが三種の神器と安徳天皇を抱え海の中に身を投じていく姿が描かれた。海に沈む女性たちの衣服の鮮やかさが象徴的に示されることから感じ取れることは、『鎌倉殿の13人』が描こうとしているのは、「男たちの身勝手な争いに巻き込まれるしかなかった女・子供たち」の姿なのではないか。

 そして、壇ノ浦の戦いから見る2作品の比較において最も印象的なのは、「義経の戦法をどう見るか」の違いである。『平家物語』では「漕ぎ手を矢で射よ!」と指示する義経のみが描かれ、その奇策により、平家が一気に劣勢となったことが示されるために、天才武将・義経の一面のみが輝く。だが、『鎌倉殿の13人』は、「漕ぎ手を矢で射る」ことがいわば民間人を巻き込むことであり、いかに非人道的であるかを、義経(菅田将暉)の行動に怯え躊躇したり、ドン引きしたりする味方たちの様子から示す。それによって、彼が今後追われる身になることへの理由づけをするとともに、戦いというものがいかに汚く非情なものであるかを、リアリティを持って今の世に伝えるのである。

 北条義時(小栗旬)が主人公の『鎌倉殿の13人』は、源平合戦を終えた今、むしろこれからが本番である。菅田将暉演じる今までにない、規格外の義経の最期が迫る。彼が一体何を見せてくれるのか、義時が何を思うのか。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

■配信情報
『平家物語』
FODなど各配信サイトで配信中
声の出演:悠木碧、櫻井孝宏、早見沙織、玄田哲章、千葉繁、井上喜久子、入野自由、小林由美子、岡本信彦、花江夏樹、村瀬歩、西山宏太朗、檜山修之、木村昴、宮崎遊、水瀬いのり、杉田智和、梶裕貴
原作:古川日出男訳 『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集09 平家物語』河出書房新社刊
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:高野文子
音楽:牛尾憲輔
アニメーション制作:サイエンスSARU
キャラクターデザイン:小島崇史
美術監督:久保友孝(でほぎゃらりー)
動画監督:今井翔太郎
色彩設計:橋本賢
撮影監督:出水田和人
編集:廣瀬清志
音響監督:木村絵理子
音響効果:倉橋裕宗(Otonarium)
歴史監修:佐多芳彦
琵琶監修:後藤幸浩
(c)「平家物語」製作委員会
公式サイト: HEIKE-anime.asmik-ace.co.jp
公式Twitter:@heike_anime

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