ソル・ギョング、パク・ヘス、池内博之ら共演 『夜叉 -容赦なき工作戦-』のスリリングさ

『夜叉 -容赦なき工作戦-』のスリリングさ

 男性キャストの極めつけが、強力な悪役である日本の諜報員オザワを演じる池内博之だ。池内は、彼の海外での代表作といえる『イップ・マン 序章』(2008年)で、空手を使う格闘マニアの日本軍将校役を、潔ささえ感じる堂々とした演技で務めている。本作では派手なアクションを担当してはいないが、風格が加わった風貌や身のこなしは、数々の魅力的な俳優陣のなかでも光っている。

 オザワは、内閣官房の情報調査機関、通称「内調」出身のスパイだという設定があるようだ。近年、日本国内で政権の利益を代表する内調の力が増し、公安機関との勢力争いをしているという噂があるように、娯楽映画の設定に組み込むため、日本の情報機関の趨勢についても、製作側は調査しているといえる。

 とはいえ、現実の日本政府の外交力を見ていると、中国、韓国、北朝鮮などに比べ、日本が国際的な情報戦において成果を残していると言い難いのは、日本の観客、視聴者は理解しているはずだ。そんな日本のスパイが東アジア圏の機密情報を思うままにしようとする本作の展開は、本作において最も荒唐無稽な点かもしれず、それを象徴するように、オザワとの最終対決が描かれる場面は、ほとんどロジャー・ムーア時代の『007』シリーズのようなリアリティのバランスに引き戻されてしまっているのは、残念な部分ではある。そして、『ミッション:インポッシブル』(1996年)を想起させる、日本国総領事館潜入作戦も、オリジナリティに欠けるパートだった。

 しかし、東アジア経済圏の国家間の軋轢を題材とし、韓国語、中国語、日本語、英語と、複数の言語が飛び交う本作のスケールは、日本や韓国、中国、そして現在最も問題視されているロシアを含めた複雑な情勢や、歴史的背景が絡み合っていることで、異様な面白さを持ち得ているというのも事実だ。そこにメスを入れた、アメリカのドラマ『Pachinko パチンコ』などは例外といえるが、そのような混迷した状況を、最低限のリアリティをもって表現できるというのは、日本、韓国、中国などを含めた東アジア諸国のクリエイターのアドバンテージだといえる。

 もちろん、国際情勢や歴史問題に触れることは、娯楽映画としてリスクを背負い込むことになることは確実であるし、製作側には優れた国際感覚を持った才能やスタッフ、キャスト間の共通理解が必要となることだろう。しかし、それが難しいからといって、世界的に注目度の高いトピックに多くの製作者たちが手を出すことを控えている結果、そのあたりがいまいち空洞になっているというのが、現在の映画界の状況ではないのか。

 本作『夜叉 -容赦なき工作戦-』が、その点において最高の作品であるかというと疑問を感じるところではあるが、東アジア圏の俳優たちが、実際の国際情勢を部分的に背負いながら、必然性のある役を演じているところは、非常にスリリングである。ここで本作が見せた世界観や手法は、今後、日本映画界にとっても非常に参考になるものだったのではないだろうか。

■配信情報
Netflix映画『夜叉 -容赦なき工作戦-』
Netflixにて独占配信中
監督:ナ・ヒョン
脚本:アン・サンフン、ナ・ヒョン
主演:ソル・ギョング、パク・ヘス、池内博之、ヤン・ドングン、イエル、ソン・ジェリム、パク・ジニョン
Jeong Kyung-hwa/Netflix (c)2022

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