ソル・ギョング、パク・ヘス、池内博之ら共演 『夜叉 -容赦なき工作戦-』のスリリングさ

『夜叉 -容赦なき工作戦-』のスリリングさ

 Netflixで配信されている韓国のスパイアクション映画『夜叉 -容赦なき工作戦-』は、現在のアジア圏の娯楽映画において、様々な気づきを与える一作だ。というのも、『クレイジー・リッチ!』(2018年)、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)、『ドライブ・マイ・カー』(2021年)など、中国、韓国、日本を含めた東アジアやそれらの国を舞台にした作品が、アメリカを経由して世界でこれまでになく注目を浴びている現在、その状況が追い風になるような内容になっていたからである。

 ここでは、そんな本作『夜叉 -容赦なき工作戦-』の内容を振り返りながら、韓国映画や日本映画界が模索していきたい作品づくりについて考えていきたい。

 本作の中心的な舞台となるのは、北朝鮮との国境近くにある、中国の瀋陽(しんよう)。工業が盛んで、中国東北部でも最大規模の都市としても知られている。そんな地理的条件から、ここには北朝鮮をはじめ、各国の諜報員が数多く活動していると、本作で説明されている。

 そんな瀋陽にやってきたのは、『イカゲーム』(2021年)に重要な役で出演していたパク・ヘスが演じる検事のハン。彼は仕事上の失態によって、大韓民国・国家情報院の求めに応じて、瀋陽で活動する韓国の諜報チームの監察を務めるのだ。そこで行われていたのは、想像をはるかに超える厳しいミッション。チームの面々は銃で武装し、いつでも射殺されるリスクを抱えているとともに、必要があれば人間を殺すことも厭わない。

 なかでも、ソル・ギョングが演じるチームリーダー、通称“夜叉”は、敵との激しい銃撃戦を何度も生き延びてきた猛者である。はじめは正義感や検事としての立場から、超法規的な行動を非難せずにおれなかったハンだったが、チームの作戦に参加するうちに、その考えに変化が生まれていくこととなる。『007』シリーズでは、このような「殺しのライセンス」をスパイが活用することは暗黙の了解として表現されてきたが、ここでは、正義漢の検事の目を通すことによって、その異常性や衝撃性を目立たせているといえよう。

 本作で目を引くのは、次々に登場する、色気ある男性キャストである。まず、前述のソル・ギョングとパク・ヘス。彼らが歓楽街の路上で激しく格闘を繰り広げて親交を深めるシーンは、同じくソル・ギョング主演の『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)のように、“ブロマンス(男性同士の濃厚な友情)”要素を、意識的に押さえていることが分かる。雨が降るなかで彼らが取っ組み合う姿は、ある種エロティックなものとして撮られているといえる。

 さらにチームメンバーを演じている、髭を伸ばして荒々しいイメージにチェンジしたソン・ジェリムや、アイドルグループ「GOT7(ガットセブン)」のメンバーでもある、可愛らしい印象のパク・ジニョンなど、さまざまなタイプの男性陣を用意したキャスティングは、本作が非常に作為的に出演者の男性としての魅力を押し出そうとしていることは確かだ。とはいえ、それが映画におけるスリルや、ストーリーとの調和を崩していないのは、俳優たちのシリアスなトーンを心がけた演技や、アーティスティックな色調、指向性のあるフォーカスで立体的な画面を構成するなど、総合的な技術が製作陣にあるゆえといえよう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる