『悪の偶像』は韓国ノワールの進化型!? ポン・ジュノに続く才能を持つイ・スジン監督の手腕
カンヌ国際映画祭最高賞、アカデミー賞作品賞などに輝き、世界中でヒットを達成した空前の韓国映画、『パラサイト 半地下の家族』。ポン・ジュノ監督が、この成功を収める以前から、韓国の作品は世界的に注目を集めていた。なかでも評価されているのが、社会の問題や、人間の奥底にある感情を容赦なく描くという姿勢である。
そんな“韓国ノワール”とも呼ばれるタイプの韓国映画そのものを象徴し、さらに進化型と呼べるような映画が現れた。新しい才能イ・スジン監督が生み出した、サスペンス映画『悪の偶像』である。ここでは、そんな本作の描いた正義と悪の葛藤のテーマと、その問題が行き着く、真におそるべきテーマについて考えていきたい。
ポン・ジュノ監督の過去作を振り返ってみると、そのどれにも過激な描写があるように、とくに海外で高く評価されてきた韓国映画の作り手たちは、いずれも心をえぐるような部分を持つ作品を撮り続けている。パク・チャヌク監督(『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』)、キム・ジウン監督(『悪魔を見た』)、ナ・ホンジン監督(『チェイサー』、『哭声 コクソン』)……。
その流れに、少し遅れてやってきたのが、ナ・ホンジン監督と同年代の、イ・スジン監督である。彼は、2014年公開の初長編『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』で、いきなり国内外の複数の賞を獲得して話題となり、巨匠マーティン・スコセッシ監督からも賞賛された。
『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』は、女子中学生が43人の男子高校生の集団に暴行されたという、あまりにも陰惨な、実際の事件からインスピレーションを受けた作品だ。事件はそれだけでは終わらず、その後も加害者の親族たちが生活圏に現れて示談を迫ってくるなどの嫌がらせを受けたり、警察、病院、学校などでも酷薄な対応を受けるなど、被害者の側が追いつめられていくという理不尽な状況が描かれていく。
リアリティある演出によって、事件のショッキングな描写はもちろん、孤立していく少女の切迫感が、見る者に強く伝わってくる。その過酷さは、監督自身の社会に対する怒りの告発のようにも感じられるのだ。