『神様のえこひいき』が辿り着いた少女漫画実写作品の最適解 高校生の無限に広がる自由

『神えこ』が辿り着いた少女漫画実写の最適解

 死の淵に立たされた主人公が別人に“転生”するというプロットはファンタジーの定番であり、それ自体にこれといって目新しさはない。しかしこの設定に必然的に訪れる、新しい身体に順応していくプロセスや、心を通わせた相手に自分が転生していることを告白する際に生じる困難。いかにして相手に理解してもらうかの模索が序盤から欠かさず描かれていった後、中盤に神楽の心が宿った弥白の身体が目を覚ましてからは、器用に“入れ替わり”が重ねられていくのである。“入れ替わり”となれば、『転校生』や『君の名は。』に代表されるように男女逆転が定石であり、ファンタジー性とコミカルさが高まるのに比例して物語にも奥行きが生まれるものだ。

 そこにさらに加えられるのは、“新しい自分になる”という前向きさに付随してそれまでの自分を否定してしまうことの脆さであったり、異性や同性という分類すらも取り払って“誰か”を好きになるということの真っ直ぐさ。誰が誰を好きになってもいい。どちらかを認め、高めていくためにもう一方を否定するような素振りは一切見せず、たとえそこに何らかの矛盾が生じたとしても構わずに思うまま生きることを肯定する。友情と愛情、異性と同性、過去の自分と現在の自分と未来の自分。何でも分類しようと思えばいくらでも分類できるが、どれかひとつしか肯定できないほど人間のキャパシティも神様のキャパシティも限られているわけがない。

 彼らの無限に広がるキャパシティは、“自由”という言葉に置き換えることができる。けれども自由とは無軌道なものではなく、ある一定の制約があって初めて成り立つ相対的なものである。社会だけでなく自分自身が置かれた環境など、あらゆる変化に柔軟に向き合い対応し、そこから自由を見出していく。そしてどこまでも真っ直ぐ素直にいられることは、高校生の、さまざまな可能性を秘めた若者たちの特権なのだ。

 もちろん学園ものとなれば将来性あるキャスト陣に触れないわけにもいくまい。メインキャスト4人のなかで群を抜いた存在感を放つのは、やはりキャリア的な面から見ても桜田ひよりであり、その演技的な安定感がキャラクターの持つ不安定さを抜群に高めていく。そして“入れ替わり”として桜田の雰囲気を掌握しきった藤原大祐の演技には時折桜田が重なって見える巧妙さがあり、鳥居鈴役の新井舞良の牽引力が全体のバランスを補完する。そこに出演作を重ねるたびに目に見えて進化を続ける窪塚愛流が入ればもはや言うことはない。異性愛にこだわり続けていたケンタが葛藤を重ねながら、自分が好きだと思う人をまっすぐ見つめたいと考える過程が明瞭に表現されており、そういった意味で“if”のルートへと彷徨いこむ第7話は見事であった。

■配信情報
Huluオリジナル『神様のえこひいき』
Huluにて、全8話独占配信中
出演:藤原大祐、桜田ひより、窪塚愛流、新井舞良、真飛聖、古川雄輝
原作:小村あゆみ『神様のえこひいき』(集英社マーガレットコミックス刊)
脚本:北川亜矢子
監督:松本優作、杉岡知哉
制作プロダクション:アットムービー
製作著作:HJホールディングス
(c)小村あゆみ/集英社・HJホールディングス
公式サイト :https://www.hulu.jp/static/kamieko
公式Twitter:@kamiekoHulu

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