社会のタブーに真っ向から挑む 日本の現状をも照らす韓国ドラマ『未成年裁判』のリアル
この4月1日から、日本では改正少年法が施行される。同日より成人年齢が18歳に引き下げられるためで、20歳未満を「少年」とする少年法の定義はそのままに、18歳と19歳は「特定少年」とされて懲役などの刑罰を受け、実名報道される場合もあるという(※1)。
少年法をめぐっては刑罰対象年齢の引き下げや厳罰化などが度々議論の的になってきたが、そんな今こそ観ておきたい1作といえるのが、韓国ドラマで初めて少年法を取り上げたNetflixシリーズ『未成年裁判』だ。韓国の現状を綿密な取材に基づいて描いた本作は、本国、日本をはじめ各国で「今日のTOP10」1位を獲得、グローバルTOP10では非英語作品として公開から3週連続でTOP10入りし、2週連続で1位を記録するなど世界的にも受け入れられた(※2)。『イカゲーム』『地獄が呼んでいる』などに続いて、本作のような社会派法廷ドラマも響いたわけだ。しかも、『D.P. -脱走兵追跡官-』同様、エンタメではなかなか踏み込めなかった社会のタブーに真っ向から挑んでいる。
4年をかけた取材で少年犯罪に関わる人物を立体的に描く
キム・ヘス演じる物語の主人公シム・ウンソクは韓国の判事3300名のうち、わずか約20名しかない「少年部」の判事で、「非行少年を憎んでいる」と公言する。同期の男性たちを尻目に中央地裁に配属され、海外研修を済ませ順調にエリート判事コースを歩んでいる……ように傍目には映る。少年犯罪の保護処分で最も厳しい10号をよく下すことから「10(シプ)ウンソク」と呼ばれるほどの厳格さで知られ、冷静沈着で笑顔をまるで見せない。韓国では満10歳以上14歳未満は触法少年と呼ばれ、刑事処罰を受けない。少年法の目的はそもそも処罰ではなく、子どもたちの家庭環境をはじめとする周辺環境の整備や保護施設などでの品行の矯正、それによる健全な成長だと、劇中のシム判事は語っている。
少年犯罪で被害者となるのは、その多くが同じ子どもたちだ。シム判事のデスクや判事席には必ず、担当する少年犯罪によって犠牲になった被害者の写真が飾られている。事あるごとに彼らの顔を見つめながら、加害者となった子どもたちを見つめ、「人を傷つけたら償わなければならないのだ」と審判を下していく。真実を追及するためならば、『HERO』(フジテレビ系)の異色検事や『イチケイのカラス』(フジテレビ系)の異端の刑事裁判官のごとく、自らが動く。車とぶつかっても、非行少年に殴られてもナイフで刺されても、彼女は止まらない、止められない。被害者の無念を晴らすだけではない。シム判事がそこまでする理由も、審判を1つ1つ終えるとともに明らかになっていく。
そんな本作は韓国で実際に起きた少年犯罪をモチーフにしているものの、フィクションである。脚本のキム・ミンソクは今回が初ドラマ脚本という新鋭で、およそ4年をかけて判事を含め少年犯罪に携わる関係者に取材を重ね、被害者側、加害者側の子どもたちとその保護者、そして子どもたちの処遇を決める判事たちの過去と現在も含め、多角的かつ立体的に少年犯罪に関わる人物を描くことを試みている。裁く側が、完璧な聖人であるとは限らないのだ。
若い世代にこの重要なテーマを預け、時間的・金銭的投資も惜しまない韓国ドラマの底力が伺えるとともに、主演のキム・ヘスをはじめ、『悪人伝』『グリッド』のキム・ムヨル、『ミセン-未生-』『工作 黒金星と呼ばれた男』のイ・ソンミン、さらに『パラサイト 半地下の家族』『椿の花咲く頃』などで知られ、キム・ヘスとは映画『ひかり探して』でも共演したイ・ジョンウンがそれぞれ重厚な演技で応えている。猟奇殺人に関わる“少年”ペク・ソンウを演じたイ・ヨン、DVを受けるユリ役のシム・ダルギなど、期待の次世代俳優たちの熱演も見逃せない。