社会のタブーに真っ向から挑む 日本の現状をも照らす韓国ドラマ『未成年裁判』のリアル

韓国ドラマ『未成年裁判』の切実なリアル

凶悪事件から家庭・学校で起こる事件まで、現実を映し出す

 劇中では興味深いデータが語られる。ユ・ジェミョン演じる現職国会議員が少年法改正を目論み、次の補欠選挙でシム判事の上司、カン・ウォンジュン部長判事(イ・ソンミン)を擁立させようと口説く場面で、少年事件のうち本当に凶悪な犯罪は1%、校内暴力(日本で「いじめ」と呼んでいるもの)が15%、そのほかは家庭環境(や周辺環境)が原因のいわゆる非行、というものだ。

 本作でも冒頭から衝撃を与えるのが、2017年に実際に仁川で起き韓国を震撼させた小学生誘拐殺人事件をモチーフにした事件。携帯電話で母親に連絡をとろうとした小学生を自宅に誘い、無残な姿にさせたのは2人の未成年で、かつて日本でも起きた連続殺傷事件を思い起こさせる信じがたいほどの凶悪犯罪だ。

未成年裁判

 加害者の子どもたちの処分を決める審判を終えても、シム判事と同僚のチャ・テジュ判事(キム・ムヨル)の心は晴れない。どの事件を終えても、少年犯罪は心にしこりが残るとシム判事は言い、子どもたちの“その後”を憂いている。特に年上で主犯格だった16歳の少女のもとには両親が駆けつけてもいない。最も身近な大人であるはずの親が努力しなければ、子どもたちに未来はないと彼女は言う。親として、子どもたちの叫びに気づいてやれているのか、自問したくなるシーンが本作では随所に差し込まれている。

 さらに、学校を舞台にした犯罪も描かれた。ここ数年は若手俳優やK-POPアイドルたちの過去の校内暴力が次々に告発されてきたが(真偽が曖昧なものも多い)、本作ではドラマ『SKYキャッスル』でも描かれた超学歴社会を反映させ、教師主導による試験問題や解答の漏洩事件を取り上げた。学校の人気ランキングが難関大の進学率に左右されるのは、日本も同じ。また同様に、入試システムを学力偏重ではなく、サークルやボランティアなどの課外活動を含め、より包括的に子どもを見る試験へと変更させたことも裏目に出た。

未成年裁判

 しかも、その事件にはカン部長判事の長男も関わっていた。法廷では子どもたちに真摯に向き合い続けていても、我が子の成績が落ちれば叱責する、俺はテレビにも出ている“部長判事カン・ウォンジュンだぞ”と威圧する。『人間レッスン』で裕福な家庭に育った少女が圧迫教育から逃れるように犯罪に加担したように、プレッシャーに押しつぶされそうになった子どもたちが選んだ道を、我々大人は責めることなどできない。そして、この件では社会的格差がそのまま学習環境格差、学力格差に繋がっていることにも触れている。「入試システムを変えたくらいで、社会は変わらない」のだ。家庭環境だけでなく、親世代の価値観、ひいては社会の価値観が子どもたちを追い詰めている。

深刻化する性犯罪もきっちり描く

 加えて、忘れてはならないのが少年犯罪における性犯罪である。『今、私たちの学校は…』でも描かれたように校内暴力とも密接だ。また、韓国ではつい最近も、劇中で描かれたように保護施設から10代の子どもたちが脱走する事件があったという(※3)。所持金が尽きれば窃盗など犯罪を繰り返すことになり、身寄りのない子どもが“手っ取り早く稼ぐ”となれば売春など性犯罪に手を染める可能性が大いに高くなる。

 劇中では、少年グループによる集団性暴行が取り上げられた。主犯格の少年を告発した元“交際相手”という少女は、ほんのわずかな登場シーンだったが、映画『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のころのチョン・ウヒの面影があり一瞬ドキリとした。『哭声』のチョン・ウヒが注目されるきっかけとなった同作も、2004年に実際に起きた集団性暴行事件を描いており、その加害少年たちは一切処分を受けていない。少年犯罪に関わらず、犯罪は関わった人間を壊し、家族を壊し、人生を壊すが、とりわけ性犯罪は生きながらの死に等しい。その傷は審判が終わろうが、加害者が刑罰を受けようが、一生癒えることはない。

 なぜ、少年たちがまったく悪びれもせずにそれを繰り返してきたのかを考えるとき、厳罰化よりも“指導”という理念を持っていたカン部長判事の言葉が加速度を持って蘇ってくる。毎年3万人以上の子どもたちが少年犯罪に巻き込まれる。数をこなすべく「スピード勝負」の審判をモットーにし、それで出世してきた新任部長判事ナ・グニ(イ・ジョンウン)は、この少年性犯罪とシム判事との関わりの中で自身の考えを大きく変えることになる。さらには、シム判事も過去と対峙することで「非行少年を憎む」意味が変わっていく。

 ただ、少年審判を通じて希望を見出して生き直せる者がいる一方で、再び“法廷に戻ってくる”者は確実にいる。凡庸な答えは提示しない『未成年裁判』は、今こそ一見の価値がある。

参照

※1. https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji14_00015.html
※2. https://jp.yna.co.kr/view/AJP20220316002800882?section=search
※3. http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2022/03/22/2022032280009.html

■配信情報
『未成年裁判』
Netflixにて配信中
Swann Studio/Netflix

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