『恋せぬふたり』が示した“救い” 岸井ゆきのと高橋一生が話し合った“自分たちの幸せ”

『恋せぬふたり』が示した“ひとつの救い”

 羽は恋愛感情を抜きにした「家族(仮)」を、「この家に一緒に住む人」だと認識していた。たしかに、血縁関係も恋愛感情も抜きにしたふたりを結びつけているのは、この家だけ。羽の唯一の家族だった祖母が遺してくれたこの家は、家族の象徴ともいえる場所。

 しかし、咲子は「この家に縛られなくてもいいのではないか」と提案する。もちろん、咲子もこの家に愛着を持ち、これからも住み続けたい。しかし、だからといって羽がこの家から離れたら「家族(仮)」をやめなければならないなんてことはない。新天地で好きな野菜の仕事に励む、そのベストな生活を「家」や「家族」を理由に諦める必要はないのだ、と。

 ふたりでスタートした「家族(仮)」は、ふたりの考える「家族」の形でいいのだ。ふたりが「たとえ違う場所に住んでいたとしても持続可能な関係性なのだ」と新たに定義したら、それは成立する。いくらでも再定義可能なのだから。

 一度決めたものを守り続けようとするほど、縛られてしまうこともある。羽もその真面目さゆえに、知らずしらずのうちに考えが固まってしまっていたところがあったと気付かされる。だが、時代の移り変わりによって生活様式が大きく変わり、使われる言葉だって世代によって変化している。ならば「幸せ」という言葉が示す意味だって必要に応じて再定義してもいいのではないか。

 一度、自分を救ってくれた言葉や名前でさえも、場合によってはリセットしてもいい。自分を縛り付けていると思ったら、それを解き放ち、また新たに救われる言葉を探せばいいのだ。すべては「(仮)」で。

 その再定義した「幸せ」を、これまでの「幸せ」とは違う、と誰かがとやかく言うかもしれない。でも、あなたが新たに名付けられた幸せを目指して生きるのは、その人ではない。とやかく言いたい人もまた、その人なりの幸せ探しに集中してもらえたらと思う。

 そして、もし自分の幸せを定義する言葉が見つからない、という人は言葉を知るところから始めるのもいいかもしれない。そのために、本作のようなチャレンジングなドラマが生まれているのだから。そして、モヤモヤを抱える人たちが1人でも多く「これがベストで大満足」と言える幸せが訪れることを願うばかりだ。

■配信情報
よるドラ『恋せぬふたり』(全8回)
NHK+にて配信中
出演:岸井ゆきの、高橋一生、濱正悟、小島藤子、菊池亜希子、北香那、アベラヒデノブ、西田尚美、小市慢太郎
作:吉田恵里香
音楽:阿部海太郎
主題歌:CHAI「まるごと」
アロマンティック・アセクシュアル考証:中村健、三宅大二郎、今徳はる香
制作統括:尾崎裕和
プロデューサー:大橋守、上田明子
演出:野口雄大、押田友太、土井祥平
写真提供=NHK

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