恋愛をしないドラマの正解があってもいい 制作統括・演出が『恋せぬふたり』にかけた思い

CP&CDが『恋せぬふたり』にかけた思い

 よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)が、いよいよ2月21日より再開する。オリンピック中継を受けて2週間越しの第5話放送(全8回)。2月19日深夜に第1話~4話のイッキ見再放送もあり、NHK+にて後半スタートに向けておさらいすることができる心遣いもまたうれしい。

 そこで今回は、より深く楽しむヒントを探るべく、“よるドラ”立ち上げから関わる制作統括の尾崎裕和氏、企画・演出の押田友太氏にインタビュー。『恋せぬふたり』が生まれた背景から、「あの名言はどのように生まれたのか?」といった撮影裏話、そしてこのドラマを通じて感じてほしいことなど、本作にかける思いをたっぷりと語ってもらった。(佐藤結衣)

きっかけは「恋愛=幸せ」なドラマばかりが描かれる違和感から

――番組HPの制作日誌(6)でも詳しくお話いただいていましたが、改めて『恋せぬふたり』を企画された経緯から教えてください。

押田友太(以下、押田):きっかけとなったのは、「ドラマを描く=恋愛要素は必須なのか?」という疑問からでした。最初にその疑問を抱いたのは、私が広島放送局で地域発ドラマを手掛けたときのこと。女子高校生が部活を頑張るお話を作っていたのですが、打ち合わせで「青春ドラマなら恋愛を描いたほうがいいですよね」という流れになったんです。実際にそういうドラマは多いし、そうしたほうが盛り上がるのかなとも思ったので、なんとなくその場の雰囲気で恋愛要素を入れたんですが、映像になるほど「なぜ必ず恋愛を入れなければならないんだろう」というモヤッとしたものが残りまして。その違和感は、東京に来てから大河ドラマや朝ドラを担当しても消えませんでした。当然のようにヒロインと相手役をセットにして恋愛要素を入れていく。恋愛を描かないとドラマにならないのか、とモヤモヤしたものを抱えながらも作り続けてきました。

――たしかに「恋愛をからめてこそドラマ」という傾向はありますね。

押田:そんなとき新人の作家さんから「リスロマンティック」(相手に恋愛感情を持つが、相手から恋愛感情を持ってもらうことを望まないセクシュアリティ)という言葉を教えてもらったんです。その言葉を知ろうと思い、ある団体に取材をさせてもらうと、偶然、その方がアロマンティックやアセクシュアルに詳しい方で、その方から「日本のドラマは“恋愛をすること=幸せになること“として描かれることが多い。だから“恋愛をしないと幸せになれない“と言われているような気持ちになって否定されていると感じる当事者の方もいますという声をいただいて。自分の中にあった違和感とも繋がったような気がしました。ならば「恋愛をしない幸せを描くドラマがあってもいいんじゃないか」と企画書を作ることにしたんです。もちろん、周りからは「それってドラマになるの?」「ドラマを否定することになるんじゃないの?」ということを言われたんですけど、尾崎さんが拾ってくださって(笑)。

――尾崎さんは、押田さんの企画書をどのように感じられたのでしょうか?

尾崎裕和(以下、尾崎):“よるドラ”という枠の存在意義として「今まで見たことがないドラマを作りたい」という思いがありました。アロマンティックやアセクシュアルの方を主人公にしたドラマは、少なくとも僕は今まで日本のドラマでは見たことがなかった。他に例がないからこそやる意味もあるし、当事者じゃない人たちにも共感できるテーマがあるように思いました。そして、いろんなセクシュアリティを、よりポジティブに考えていくドラマができるんじゃないかという予感も。たしかに局内では紆余曲折ありましたが(笑)、「これは何かになるかもしれない」ということで企画を通すことができました。

――このお話は、いつぐらいから動いていたのでしょうか?

押田:私が地域ドラマを手掛けたのが2016年、リスロマンティックの取材をしたのが2019年だったので、その時期に企画が生まれて。ただ、企画が通ってからがすごく難しかったです。

――具体的には、どのようなところが難しかったですか?

尾崎:やはり当事者の方がいらっしゃるということですよね。その方々について知らずに、想像でドラマを描くわけにはいかない題材でしたので。今回は「考証」のスタッフとしても入って頂いていますが、当事者や専門家の方々にご相談しながら作っていく体制を整えなければというのが、まず制作統括として考えたことです。

押田:それとドラマにすることで、思わぬ反響が返ってくることも懸念点のひとつでした。今回「考証」で入ってくださっている方々とは、企画が通る前から何人かの当事者の方を紹介してもらった縁もあり、以前から話をしていたのですが、世の中に広く知られてしまうことで傷つくひともいるじゃないかと。また、偏見をつくらず、アロマンティックやアセクシュアルの方々にも多様性があることを伝えるために、ちゃんと「ここはこういうつもりで作っています」「ドラマだからこうなっているけど実際は全部がそうじゃありませんよ」といったフォローをしていこうと、番組HPの「考証チームブログ」という形で補足することに。また、番組PRも世の中の反応を見ながら慎重に進めていくようにしていました。

――実際にオンエアをしてからの反響はいかがでしたか?

押田:思っていた以上に、肯定的な意見が多いなという印象はありました。それこそ当事者ではない方からも「セリフが刺さった」「登場人物の生きづらさがわかる」という声もあって。ただ「ラブではないコメディ」と謳っていたので、もう少しライトに見られると思われていた方が多かったのか、SNSの反応を見ると「辛い」「見ていられなくなる」「傷ついたときのことを思い出す」という声もありました。取材で当事者の方が実際に言われてきた言葉たちを取り入れたからかもしれないのですが、リアルであっても視聴者のみなさんを傷つけてしまうようだったら、そこも調整していかないといけないなと反省したところでもあります。

尾崎:あとは、第1回を観てとても辛かったけれど、頑張って続きの回も観ていただいて「ここはすごくわかる」「共感できる」と言ってくださるようになった方もいて、連続ドラマの醍醐味だなという感じもありましたね。キャラクターたちの心理が徐々に解き明かされていく中で、最初は「ちょっと違うんじゃない?」とツッコミを入れていたけれど「そういうところは悪い人じゃないんだよね」と理解が深まるといったように。このドラマ自体で何かの答えを出すというより、問いかけみたいになっているのかなと。ただ絶賛されるとか、一方的に否定されるということではなくて、いろいろな人がいてその意見交換が現実のネット上でも繰り広げられているのは、ドラマとしてもすごくいいことなのかなと思っています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる