『恋せぬふたり』高橋一生の「ごめんなさい」が悲しく響く 咲子と羽の間に込められた愛情

『恋せぬふたり』羽の「ごめんなさい」が響く

 「ごめんなさい」。その言葉の数だけ、心のシャッターを下ろされているような気がした。これ以上、踏み込んでほしくない。意見を交わすつもりもない。まるで、祖母の意志に沿ってしか開かれなかった、高橋家の門扉のように。

 よるドラ『恋せぬふたり』(NHK総合)の第7話(全8話)。これまで兒玉咲子(岸井ゆきの)の恋愛や友情、家族との向き合い方を冷静に見届けてきた高橋羽(高橋一生)が、ここにきて大きな揺らぎを見せる。

 “家族”になるためには、この先どのように生きていきたいのか、パートナーとライフプランを話し合う必要がある。特に子どもを望むのかいなかは、ゆくゆく大きなすれ違いを生むことになりかねない。しかし、咲子は“家族(仮)”の羽に聞くことができない。先々のことどころか、今まさに彼の元気を奪っているものが何なのかも尋ねられずにいた。

 そんなふたりを見ていて「なんでちゃちゃっと聞けないわけ?」と咲子の妹・みのり(北香那)も、「もう普通に聞けよ〜」とカズ(濱正悟)もヤキモキしているようだ。きっと、彼らのようにグッと相手の中に踏み込んでいくこともひとつの解決方法。だが、羽が“自分語りをしてもいいかもしれない”と思えるまで“待つ”というのも、やはり尊重したい方法のひとつだ。

 少なくとも咲子と羽の間では、そうして相手のタイミングを伺うことが愛情の表れのように感じる。相手次第になってしまうことからモヤモヤした時間も長くなる。いっそちゃちゃっと聞いてしまったほうが、よっぽど早くスッキリするだろう。だが、その時間と労力を引き受けてでも、相手を尊重したいという思い。それはできるだけ早く理解したいと押しかけるよりも、ずっと奥ゆかしい愛情に感じられる気がするのだ。

 そして、満を持して羽は最近元気がなかった理由を咲子に話し出す。だが、それは本当に咲子の知りたかった核の部分よりも、もっと手前の部分の話だった。スーパーの仕事で副店長に昇進したこと。本来ならば喜ばしいニュースなはずなのに羽は浮かない顔をしている。それは、野菜の仕事からは遠ざかることになってしまうからだ。

 いっそスーパーの仕事を辞めてもいいのでは、という咲子の提案もすぐに却下。その即答っぷりに、羽にとって何を大切に人生を生きているのかが明確になる。野菜に携わる仕事をすること。そして、この家を離れたくないこと。

「祖母が遺してくれたこの家を守ることが僕にできる唯一のこと」

 たしかに、この家は羽にとってかけがえのない場所。だが、それは育った場所という以上の思い入れを感じさせる言葉だった。親を捨てずにはいられなかった羽は、祖母の暮らすこの家に身を寄せた。祖母がいたから、この家があったから、生きてこられた。それは祖母が亡くなってからも、変わらない。回想シーンに祖母の姿が見えなくても、その存在感を確かに感じられたように、今も羽のなかではこの家と祖母が一体化している。

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