『39歳』過ぎていく時間に流れる涙 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が象徴するもの

『39歳』ラフマニノフが象徴するものとは

 時間は容赦なく過ぎていく。タイムリミットがあるなら、尚さら時が過ぎるのは早い。Netflixで配信中の韓国ドラマ『39歳』も第5話、第6話と折り返し地点まできてしまった。チャ・ミジョ(ソン・イェジン)、チャン・ジュヒ(キム・ジヒョン)そしてチョン・チャニョン(チョン・ミド)と一緒に私たちも心構えが必要だ。1話1話が切実で胸が締めつけられる思いだが、リビングに寝転がってダラダラとくだらない話をしている時間がどれほどかけがえのないもだったのか、思い出せないような日々こそが何十年の月日を繋いでくれていた愛おしい瞬間であったのかを思い出したいのかもしれない。

 記憶は薄れてゆくが、思い出の場所はいつまでも変わらない。そこに行けば、当時の風景や気持ちが鮮明に蘇ってくる。いつも通っていた道、よく行った食堂、初めて出会った場所。ジュヒとチャニョンは、2人が出会った駅のホームにある椅子に座っていた。「あの頃はこんなことが起きると思ってなかった」と駅のホームに浮かんでくる10代の自分たちを見つめながら「こんな未来を予想してた?」とどうにもならない思いを彼女たちにぶつけても、そこにある思い出は楽しいままだ。

 チャニョンと顔を合わせれば涙があふれ出すミジョに、毎日泣いてあまり眠れていないジュヒ。「世界で一番楽しい旅立ちにしよう」と約束したものの、何をどうすればいいのか分からずにいる。誰もが初めての経験だから無理もない。ミジョは体に良いからと好きでもない水炊きを一緒に食べたり、ジュヒは美味しくないと言われた健康メニューを無理やり作ってきたり、挙げ句の果てにチャニョンの家に交代制で泊まりに行くと決め、さらにはキム・ジンソク(イ・ムセン)まで押しかけてくる始末。どうしたらいいか正解が分からなくても、彼らはただ、少しでも長くチャニョンと一緒にいたいのだろう。

 そんな周りの人たちに、自分のせいで人生を犠牲にしてほしくないチャニョンは「自然体でいてほしい」とお願いする。それでも、「怖い」と心の内を吐き出すチャニョンに「私も怖い」と答えるミジョがいて。彼女に新しい友達を作れと言いながらも「アメリカに行かないで」と言えるチャニョンがいるのは、今までお互いの人生に口どころか全身を突っ込んで共に過ごしてきたから。チャニョンの気持ちはお構いなしにも見えても、彼らにとって“やりすぎくらいのおせっかい”こそが“自然体”なのだ。

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