『39歳』過ぎていく時間に流れる涙 ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が象徴するもの

『39歳』ラフマニノフが象徴するものとは

 チャニョンのバケットリストは、両親に別れの挨拶をすること、ジュヒに彼氏を作ること、ミジョの実母を捜すこと、ジンソクを家庭に戻すこと。どれも人のことばかりである。人にしてあげたいことはすぐに思い浮かぶけれど、自分と向き合うのは想像以上に簡単ではないのかもしれない。

 『39歳』という年代は、何かしらを背負っている。ミジョは病院を経営し、ジュヒは病気で介護していた母親と今も一緒に暮らし、チャニョンは自分自身が病を患ってしまった。キム・ソヌ(ヨン・ウジン)は、妹のソウォン(アン・ソヒ)を捜すためにアメリカから韓国に本帰国してきた。彼らは大体のことを乗り越えられる大人になるまでに、誰にも知られずに傷ついた経験があったのだと分かる。自分のようにつらい思いをしてほしくないから、他人に優しくできるし、守ろうとするのだ。ソウォンは29歳で十分大人なのにもかかわらず、ソヌたちを目の前にすると幼く見えるのは、守られる存在だからだろう。

 ミジョは“安らげる場所”をいつも求めていたように見える。施設で育ち、2回も養子縁組が破談になった過去を持つミジョは、初めて“あたたかさ”を感じられたのが今の家族である。ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を好きになった理由は、その“あたたかさ”を感じた時に流れた曲だったからだ。ソヌに惹かれたのも、休憩所のように安心して寄りかかれる人だからだろう。そして何より、ここまでミジョを支えてきたのは、一番安らげる存在でいてくれたチャニョンとジュヒである。

 そのくらいミジョにとって2人は何にも変えられない。だから、ミジョは正直に生きるという信念をチャニョンのために迷わずに捨てた。しかしそれは、捨てたのではなく大切なものを守るための信念を貫いたようにも思う。自分の信念を曲げても非難されても、誰かを守るにはそれだけの覚悟を持たなければならない。この先も何が起きるかわからないのは、誰よりも彼女たちが知っているはずだから。

■配信情報
『39歳』
Netflixにて独占配信中
(写真はJTBC公式サイトより)

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