“大怪獣のあとしまつ”は日本映画史の中で繰り返し描かれてきた? 特撮と笑いの難しさ

国産怪獣映画の可能性

〈特撮と笑い〉に挑んだ北野武・松本人志

 〈特撮と笑い〉は難しい。怪獣映画や変身ヒーローものは、あまりにも大きな虚構を、特撮を通して描いているだけに、作り手も演者も少しでも気を抜けば、途端に虚構が露出してしまう。例えば、怪獣を見つめる演技をするときの俳優の目を見れば良い。所詮、撮影時は何もない空の雲なり、目印に向かって喜怒哀楽を見せるのだから、これほど馬鹿らしいことはない。子どもの頃、死んだ目で怪獣を見つめる俳優や、怪獣から逃げ惑う場面で歯をむき出しにして笑っているエキストラを見つけると、途端に醒めてしまった。大ウソを楽しもうとしているのに水を差されたような気分になるのである。

 では、特撮映画はいつも生真面目でなければならないかと言えば、前述の『怪獣墓場』のように、大いなる虚構を成立させているからこそ可能な砕けた表現や、それこそ怪獣に擬人化させたような動きを取り入れて笑わせても、世界観が壊れることはない。

 そして、映画監督に進出した芸人たちも果敢に〈特撮と笑い〉を試みている。北野武は監督第5作の『みんな~やってるか!』(1995年)で、ダンカンを巨大なハエ男に変身させている。『モスラ』(1961年)に出てくる小美人もどきにハエ男を呼ぶ歌を唄わせたり、小林昭二に地球防衛軍の隊長を演じさせたが、いかんせんディテールがいいかげんなのでパロディにもならない。

 また、球場に巨大な桶を作り、そこにウンコを集めてハエ男が飛来したところで巨大なハエ叩きで退治しようとする設定は、『大怪獣のあとしまつ』のウンコネタ――怪獣から発する臭いが「ウンコかゲロのような臭い」だと環境大臣が発表したところ、記者たちや総理からも、「ウンコなのか? ゲロなのか?」と問いつめられるという場面が長々と続く退屈さにも通じるものがある。もちろん、こんな下ネタを特撮映画に入れるなと言っているわけではない。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)では、ギャオスのペリット(未消化物)の中に行方不明になった人物の眼鏡を混ぜて恐怖を煽ったが、恐怖と笑いが紙一重であることを思えば、怪獣映画でウンゲロを活用して笑いを生み出すことは不可能ではないと思っているだけに、言葉遊び程度で使用されるだけでは、なんとも惜しい。

 もうひとり、〈特撮と笑い〉に挑んだ芸人監督が松本人志である。初監督作『大日本人』(2007年)は、巨大生物を倒す大日本人を主人公に、ヒーロー特撮へのアイロニーに満ちたドキュメンタリー・ドラマで、松本が演じる主人公をテレビクルーが追いかける形式を取っていたため、ディテールの甘さによって笑いが不発になった『みんな~やってるか!』と同じ轍は踏んでいない。クライマックスでは、それまでCGで描かれていた特撮パートが、きぐるみとミニチュアになるという転換が用意されていた。

 しかし、松本人志と特撮で言えば、『大日本人』よりも、『HITOSI  MATUMOTO  VISUALBUM Vol. ぶどう「安心」』(1999年)に収録された『巨人殺人』が掛け値なしの傑作で、『怪獣墓場』と並ぶ〈大怪獣のあとしまつ〉を描いた秀作である。

 並外れて巨大な身体を持つ板東の横暴に嫌気が差した知人たちが、彼の殺害を実行する。しかし、巨大な死体を湖に沈めても顔の一部が湖上に出てしまい、山中に埋めても山肌が露出して丸見えになってしまう。仕方なくトラックの荷台に死体を乗せて、シートで隠したまま自宅に持ち帰り、どう死体を処分するか思い悩むことになる。20分ほどの短編ながら、特撮的な醍醐味にあふれたオチも含めて、大きな物語をミニマムな日常のディテールを積み重ねて描く作劇が素晴らしい。

 この作品のメイキングを収録したDVDを観ると、松本は撮影にあたって「CGや合成では面白くない」と語っている。実際、劇中では板東の手のひらや、顔の一部が実寸大で作られており、その前で演じる形式が取られている。パーツのみでも十分に巨大さを伝えることが出来る上に、特撮に切り替わることがないので、現実の延長として壮大な虚構の物語を受け入れることが出来てしまう。そしてラストはTVモニターに映る板東の姿を目にすることになるが、ここでは一転して特撮となり、ウルトラマンのセットを流用としたというミニチュアが活用される。特撮パートはモニターを通して描くという見せ方も含めて、〈特撮と笑い〉が最も上手く融合した1本だった。

 『大怪獣のあとしまつ』のラストに付けられた予告編を真に受けて、もし「再びこの国を怪獣が襲う、あとしまつシリーズ第二弾」が作られるなら、松本人志監督、ビートたけし主演が最もふさわしいと思うのは、いさかか“希望”的な望みだろうか。だが、ゴジラも含めてそんな柔軟性を持って続編が作られることが、国産怪獣映画の可能性を生み出すはずである。

■公開情報
 『大怪獣のあとしまつ』
公開中
監督・脚本:三木聡
出演:山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行
怪獣造形:若狭新一
企画・配給:松竹、東映
製作:『大怪獣のあとしまつ』製作委員会
(c)2022「大怪獣のあとしまつ」製作委員会
公式サイト:https://www.daikaijyu-atoshimatsu.jp/
公式Twitter:@daikaijyu_movie
公式Instagram:@daikaijyu_movie

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