『グッバイ、ドン・グリーズ!』を通して変わる世界の見え方 人生の“宝物”になる作品に

『グッバイ、ドン・グリーズ!』が描く世界

 物語に関しては、本作の解釈は鑑賞者の1人1人に委ねられるのではないだろうか。いしづか監督は東京国際映画祭のトークショーで「『よりもい(宇宙よりも遠い場所)』では女の子同士の内面を掘り下げる描き方をしていました。半径二十メートルくらいで彼女たちだけの心の物語を描いていったのに対して、次は外側に向けてエネルギーを発散させていく物語を考えていこうというところで男の子のキャラクターを立てました」と語っている。

 その意味では、ドン・グリーズの世界は更に狭く、半径5メートルほどしかないのではないかと感じさせるほどだ。それほどまでに彼らが抱える将来への不安や、今の自分の状況への憤りは強いのだが、同時に自分が何をしたいのかもわからずにいる。それは現代の若者のみならず、世相すらも反映しているように感じられる。

 何かを変えたい、変えるために行動したい。そんな気持ちをいしづか監督は拾い上げてきた。原作付きの作品ではあるが『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』や、オリジナル作品の『宇宙よりも遠い場所』も、世界を見据えて行動することに尽力する人々の話だった。

 今作は内向きな話とも言える。しかし、“自分が変われば世界が変わる”とは陳腐な物言いかもしれないが、小さな冒険が少しの変化となり、人生観が変わり、世界の見え方が変わり、自分の人生が変わることはある。世界への認識を改めることで自分の人生や運命が変わることを説いている。その意味ではドングリーズの内面を掘り下げた内向きな話であるが、同じくらい広い世界に目を向けた外向きな話でもあるのだ。その気づきを与えてくれる作品であるからこそ、筆者もスクリーンが大きく広がって見えたのだろう。

 作中では少年3人の冒険と、小さな町で暮らしていくことや、親の期待する進路をそのまま歩むことへの疑念など、人生に対する葛藤が描かれていた。もちろん、自分の意志で能動的に進路を選択した結果、地元で生活する、親の希望通りに進路を選ぶ事であれば問題ないだろう。しかし、不安や疑念を抱いてはいるものの、それに反発する気力もなく、ただ選択を先送りにしたままで、気が付けば月日ばかりが過ぎているということもあるだろう。

 それは子供たちだけの問題ではない。例えば仕事や転職に悩む大人も同じだ。所属する会社の安定に縛られ続けて、葛藤を抱きながらも仕事を続けてしまい、病にかかってしまう人もいる。本作が問いかける“世界への広い視野”は若者だけに問いかけるものではなく、大人だからこそ考えるべきものがあるのではないだろうか。

 その内向的な様子や、一種の詩的とも言える感性が刺さると、一生ものの“宝物”になる。大切な感情を、ドン・グリーズとともに探しに出かけてほしい。

■公開情報
『グッバイ、ドン・グリーズ!』
全国公開中
出演者:花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩、花澤香菜、田村淳(ロンドンブーツ1号2号)、指原莉乃
監督・脚本:いしづかあつこ
キャラクターデザイン:吉松孝博
美術監督:岡本綾乃
美術ボード制作協力:山根左帆 美術設定:綱頭瑛子、平澤晃弘
色彩設計:大野春恵
撮影監督:川下裕樹
3D監督:廣住茂徳、今垣佳奈
編集:木村佳史子
音楽:藤澤慶昌
音響監督:明田川仁
音響効果:上野励
アニメーション制作:MADHOUSE
主題歌:[Alexandros]「Rock The World」
配給:KADOKAWA
製作:グッバイ、ドン・グリーズ!製作委員会
(c)Goodbye,DonGlees Partners
公式サイト:https://donglees.com/
公式Twitter:@gb_donglees

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