のん、表現者としての不屈の抵抗 監督作『Ribbon』に込めた切実な思い

のん、表現者としての不屈の抵抗

「言葉にできないモヤモヤを、見る人にリボンとして提示したい」

 『Ribbon』という作品をきわめてユニークなものとしているのは、単にコロナ禍における若い女性の苦悩を直截的に描くという点ばかりではない。自粛生活を強いられる中で、のん自身が演じる主人公・いつかは絶えず睡魔に襲われ、眠ってしまう。そしてその眠りがつねに闖入者の突然の訪問によって中断を余儀なくされる。〈すぐに横臥する主人公〉、そして不断に妨害する〈闖入者の介入〉。この2つの主題系が不自然一歩手前にまで反復される。この反復ぶりは、物語の推移とはまったく別の角度から『Ribbon』という映画を不意打ちしており、そしてその不意打ちが『Ribbon』を映画そのものの時間感覚の中で異様なレベルで活気づけているのだ。

――『Ribbon』の主人公・いつかは、しょっちゅう安眠妨害されていますね。お母さん(春木みさよ)、お父さん(菅原大吉)、妹(小野花梨)、そして親友の平井(山下リオ)と。

のん:自分自身が一日じゅうお布団の上で過ごしていたので、創作に時間を割いていた人間が絵を描かなくなったらどうなってしまうんだろうと考えて、結論としては「ずっと寝ているだろう」と。コロナ禍の映画なのでキャストを大勢は出さないと決めていたし、ワンシーンにつき2人までしか登場させないという縛りを作っていたんですけど、ずっと家にいる状況を最後まで突き通そうと思っていたので、やはり1人じゃなくて誰か来てほしい。そうなると他人じゃなくて家族だったら来てくれるはずだし。そこでお父さん、お母さん、妹とポツリポツリと繰り返してみました。「あ、また寝てる時に来たぞ」みたいな可笑しさを狙っています。さすがに平井までが寝ているところを訪ねてくるのは繰り返しすぎかなとは思いましたが、喧嘩しちゃって暴れちゃって疲れて何もやる気が起きない状態を表現する時に、やっぱりお布団の上がいいなというのがあって。脚本の段階ではアパートの管理人さんや清掃業者の方など、登場人物の候補がいたのですが、書き進めていく中で消えていき、父母きょうだいが一人また一人とディスタンスを測りながら訪問してきたら面白いなと思って、自然と家族ばかりとなりました。家族を描くのは好きですね。『おちをつけなんせ』の最後も、春木みさよさん(母)、菅原大吉さん(父)、桃井かおりさん(祖母)、そして私が煎餅を齧りながらテレビをみんなで見ているラストカットで終わります。まるで本当に血がつながっているかのようなあのシーンが大好きなんです。

――『Ribbon』には美大の教授役で岩井俊二監督が出演していますし、『おちをつけなんせ』では『陽炎座』の鈴木清順監督、『夢』の黒澤明監督からのインスパイアも公言されていましたね。

のん:岩井監督の描く女の子が好きですね。いい子じゃないところ、悪戯っ気のあるところが私のツボで、女の子たちが繊細な静けさの中で動いているのが印象的です。あの繊細な映像のトーン、静かな空気の切り取り方みたいなものを自分の映画の中でも実現できたらと思っていました。なので、お部屋の中の光の差し込み方とかも……。

――ええ、『Ribbon』の寝室に差し込む光は、素晴らしかったです。

のん:ありがとうございます。光を切り取るということがすごく好きなのです。

――主人公・いつかは、冒頭のシーンで大量のリボンを纏って歩きながら「重たい」とこぼします。リボンはつねに彼女のそばで人知れずフワーっと生起しているわけですが、いっぽうで彼女自身はリボンの存在に気づき得ないのですよね。「あ、リボンが見えた!」と自覚するシーンがワンカットもありません。意識せざるものへの感覚、見えないものへの感覚なのでしょうか?

のん:そうです。観ている人が「あ、このリボンはなんだろう?」「感情がリボンになっているのかな」「部屋の空気がこうなっているのかな」と、いろいろ想像してもらえたらと思いながらリボンを漂わせてみたのですけれど、感情の揺れだったり、ほどけていく負の感情だったりをリボンで表現しています。いつかにとっては寝てやり過ごしている中での、言葉にできないモヤモヤ、自分でもなぜこんなに眠ってしまうんだろうというモヤモヤ状態を、映像を観る人にリボンとして提示したいというのがあったんですけど、かといって、いつかがリボンを産み出しているというファンタジックな設定にはしたくなかったんですね。だから彼女は気づかない。象徴的なものとして出したかったのです。

――自伝とまでは言い切れないものの、いつかとのんさんご自身がダブって見える点もあると思います。

のん:私自身、私生活がそんなに得意じゃない方なので。自粛期間はずっとお布団から出ずにニュースやNetflixを観て過ごしていました。そんな中で、こんなことじゃダメだと思い立って脚本を書き始めたという面がありますし、本当に表現してないと生きていけないぞという意識があります。今回『Ribbon』を作ってみて改めて、「自分にはこれしかないんだ」という諦め、というか踏ん切りがついて良かったですね。

■公開情報
『Ribbon』
公開中
脚本・監督・主演:のん
出演:山下リオ、渡辺大知、小野花梨、春木みさよ、菅原大吉
特撮:樋口真嗣
特撮プロデューサー:尾上克郎
主題歌:サンボマスター「ボクだけのもの」
製作統括:福田淳
エグゼクティブ・プロデューサー:宮川朋之
クリエイティブ スーパーバイザー:神崎将臣、滝沢充子
プロデューサー:中林千賀子
企画:のん
制作プロダクション:ブースタープロジェクト
製作:日本映画専門チャンネル、non、スピーディ、コミディア、インクアンク
(c)「Ribbon」フィルムパートナーズ

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