『チャーリーとチョコレート工場』に掛けられた魔法 ティム・バートン作品に共通の題材も

『チャーリーとチョコレート工場』を徹底解説

 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』『シザーハンズ』など、エキセントリックな世界観で観客を魅了し続けてきた巨匠ティム・バートン監督。彼によってとびきりスイートでカラフルな魔法をかけられた映画が、2005年に日本公開され大ヒットを記録した『チャーリーとチョコレート工場』だ。

 貧しくも純粋な心を持つ少年チャーリーは、街の人々を魅了してやまないチョコレートを作る工場主のウィリー・ウォンカによる「金のチケットを手に入れた選ばれし5人の子どもを工場に招待する」という夢のような企画に誘われ、摩訶不思議なお菓子の世界へと足を踏み入れる。

 ロアルド・ダールの児童小説『チョコレート工場の秘密』を映画化した本作。ダークメルヘンの要素が強い氏の作品のなかでも異彩を放つ、ポップで色彩豊かな1作だ。2000年代を象徴するヒット作に名を連ね、世代を問わない人気ぶりも記憶に新しく、ティム・バートン作品を語る上で欠かせない存在となっている。

 今回はストーリーと制作メンバーの観点から、本作がそれぞれ他のティム・バートン作品にも共通して見られるものに則り「トラディショナル」「スタンダード」な様相を呈していることについて綴っていきたい。

 まずストーリーの観点から紐解いていきたいのは、本作がティム・バートン作品に通底したテーマである「親子の関係性」を描いている点についてだ。

 映画ファンの間で珠玉の名作として語り継がれる『シザーハンズ』は、両手がハサミの形をしている人造人間・エドワードが主人公だ。むろん、ハサミの手では誰かを抱きしめることも触れることもできず――そのことが映画を感動のフェーズに誘いこむ要素となっているのだが――彼の父親である科学者はしかるべき形をした手をエドワードに実装させようとした矢先、急な発作で帰らぬ人となる。それによって彼は不完全な姿のまま、孤独に世を生きながらえざるをえなくなってしまうのだ。

 また、 2003年作の『ビッグ・フィッシュ』は原作タイトルが『ビッグフィッシュ:父と息子のものがたり』であるように、この作品でもティムは父と子という題材を取り扱い、そこに上質な人間ドラマを織り込ませた。

 そして『チャーリーとチョコレート工場』では、ウォンカと父親の間に明確な確執がある。歯医者の父から甘いものを禁じられていた彼は、ショコラティエになりたいという夢を抱いたことで父と衝突し、ある日家を飛び出してしまう。長らく顔を合わせることのなかった2人だが、物語のラストでは、チャーリーの支えによって長年の確執を乗り越え、和解するシーンが描かれている。

 このように、バートンは物語を創作する上で「親子の関係、確執と和解」というものを頻繁に描くことで知られる作家である。それには疎遠だった父を亡くした経験を持つ氏の心境が関わっていると見られ、作品群を語る上での大きなテーマとなっている。

 エキセントリックな世界観が目立ちながらも、最後には人の優しさや温もりを柔和なタッチで描くことに長けているバートンだからこそ、『チャーリーとチョコレート工場』の心温まるラストシーンを生むことができたのではないだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる