“真摯”で“真面目”なコメディー超大作 『ドント・ルック・アップ』に感じる現実的な恐怖

過激なコメディー『ドント・ルック・アップ』

 2021年のNetflix最大の映画作品『ドント・ルック・アップ』が配信された。ジェニファー・ローレンスやレオナルド・ディカプリオ、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、ティモシー・シャラメ、マーク・ライランスなど、スター、名優が次々に出演する、豪華なSFコメディー超大作である。

 監督は、前作『バイス』(2018年)がアカデミー賞作品賞にノミネートされるなど、年々高い評価を獲得しているアダム・マッケイだ。彼の監督作らしく、本作『ドント・ルック・アップ』は、現実的な恐怖を感じられる、皮肉な笑いに満ちた過激なコメディーとして楽しめる作品となった。

ドント・ルック・アップ

 それにしても本作、さすがはアダム・マッケイと言わざるを得ない。ユーモアの連続によって観る者を笑わせながらも、そこでは近年のアメリカや世界の状況における問題の数々が、おそろしいまでに的確に射抜かれているのだ。ここでは、そんな本作で表現された問題とは何だったのかを解説しながら、核となるものの正体を暴いていきたい。

 物語は、天文学部の学生ケイト(ジェニファー・ローレンス)が、新しい彗星を発見したところから始まる。ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)とともに大発見だと大喜びしていると、大変なことが明らかになってしまう。巨大な彗星は地球に向かって進んでいて、約6カ月後に激突する見込みだという。そうなれば、人類はおろか地球上の生命全てを死に至らしめる災害が起こるというのだ。

ドント・ルック・アップ

 あわてて二人が当局に連絡し、ことの重大さを説明すると、関係機関の尽力によって、アメリカ大統領(メリル・ストリープ)と面会できる運びとなる。しかし、いま大統領は自身のスキャンダルと支持率の問題で、それどころではないらしい。散々待たされた挙げ句、鼻であしらわれて帰されてしまった……。人類が絶滅するというのに、支持率を気にしてどうするというのだろうか。

 焦ったケイトと教授は、次にTVショーに出演して、広く国民に危機をうったえるという手段に出る。だが、ケイト・ブランシェットとタイラー・ペリーが演じる司会者は、二人の主張を面白おかしいトークとして扱うだけ。そんな対応を受け、あまりのことに泣きながら番組をなじってスタジオを後にしたケイトは、番組内でおかしな人物として扱われ、視聴者にSNSで叩かれまくることになる。

ドント・ルック・アップ

 ここで描かれている、彗星の衝突をとにかく過小評価しようとする人々の反応は、心理学用語で、「正常性バイアス」といわれるものと考えられる。災害や、自分にとって都合の悪い事態が起こったとき、そのことをそのまま受け取らず、「たいしたことはない」と思い込もうとする心理が、人間にはあるのだという。人数が多いほど、この暗示にかかりやすいといわれ、実際に火事や津波などで逃げ遅れる原因ともなる。

 「正常性バイアス」だけではなく、半ば意図的に脅威が過小評価される場合もある。例えば、企業が出す汚染物質が環境に影響を与え、市民が被害を受けたとしても、国が企業の利益を守ることを優先するケースは珍しくない。また、疫病の蔓延においても、厳しい対策や科学的に妥当な方策を、国がなかなかとらない場合があり、ときに事態をすすんで悪化させるような方針をとったりすることは、われわれ自身が経験していることだ。その結果、被害を受け苦しむことになるのは、大勢の市民たちである。『ドント・ルック・アップ』が描くのは、そんな現実の権力構造の姿でもある。

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