『劇場版 呪術廻戦 0』はアニメ映画の学びになる作品に 原作に忠実だからこそ生まれた歪み

『呪術廻戦 0』に生まれた構造上の歪み

 映画や物語の基本は3幕構成、あるいは起承転結の4幕構成と言われている。1話ごとに物語を作り上げているので、4幕構成、あるいは原作3話と4話を1つの話とするならば3幕構成になっているようにも見えるのだが、1つの構成が終わるたびに物語がリセットされてしまい、また序章→戦闘→次回への引きを繰り返してしまうため、劇場版の物語の流れというよりは、テレビアニメをそのまま劇場用に1作に構成したかのように見えてしまう部分もあった。

 これは1であげた原作をそのままアニメ化した作品だからこその問題点と言えるだろう。原作にないオリジナル展開を映画化した場合、そもそも劇場アニメ用に書き下ろしているので当たり前だが、大きな物語で3幕、あるいは4幕で構成されるために1つの物語としてまとまりができる。ところが原作通りにアニメ化してしまうと、その構成が崩れてしまいかねない。

 また原作が1巻と短い中でのアニメ映画化という部分でも、回想シーンの多さに若干の疑問を覚えた。つい数分前、あるいは数十分前に見た映像を回想として流されても、それはすでに見た映像なので説明的すぎるようにも感じられた。この辺りは丁寧でわかりやすい物語を目指した故の構成なのだろうが、少し丁寧すぎるといったところか。

 ただし、だからといって原作を改変すればいいというものではなく、時には映画の構成にすることによって、原作の持ち味を壊してしまうこともありうる。この辺りは取捨選択の問題であり、高度な判断による制作の末の結果論になってしまうだろう。

 原作にないアレンジといえば、ファンにとって嬉しい展開も多く用意されていた。禪院真希による実家に対する思いなどに関しては原作を読んでいるファンであれば、思わずにやけてしまうものだろう。またアニメ版のみを鑑賞しているファンにとっても、印象深い京都校のキャラクターや七海などの人気キャラクターが躍動する様は、多くのファンから歓喜の声が上がっている。

 今回は少しばかり厳しい意見となったが、物語全体として見れば決して悪い作品ではない。ただ、漫画原作の場合そのまま映像化することを求める声もある中で、比較的原作に忠実に作られた本作が持つ、構造上の歪みが若干気になってしまった。これもまた、原作付きのアニメ作品の難しさとして、1つ大きな学びを得る作品なのではないだろうか。

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
全国公開中
声の出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (c)芥見下々/集英社
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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