横川良明×佐藤結衣が語る『最愛』と2021年のドラマ 現代が求める本当の“キュン”を探る
火曜10時枠ドラマ復活への期待
ーーTBSの火曜10時枠のドラマは『婚姻届に判を捺しただけですが』(以下、『ハンオシ』)をはじめどうでしたか?
横川:『ハンオシ』への感想は難しいです。ラブコメはある程度、推しが出ると追加点が5点ぐらい入るので(笑)。でも、火曜10時枠ドラマの限界説はどんどん顕著になってきた気がしますね。
佐藤:最近はどんな「◯◯キュン」でいくか、みたいなところがありますね(笑)。「キュン」って作ろうとするほど難しいというか、不意にくるから「キュン」なのでは、というところも。
横川:梨央(吉高由里子)と大輝(松下洸平)の方がキュンとしますからね。
佐藤:個人的には「キュンさせるぞー」っていう計算が見えてしまうと、ダサピンク現象にも近いお腹いっぱい感が(笑)。
横川:2022年1月クールの岡田惠和さんの『ファイトソング』が、火曜10時の今の流れを断ち切ってくれるか否かに期待しています。『着飾る恋には理由があって』(以下、『着飾る』)もいいドラマだったんですけど、新井Pと塚原監督の割にはわかりやすく接触を入れたり、「キュン」の呪縛が拭いきれなかったところもあるなと思っていて。『義母と娘のブルース』をスペシャルドラマ放送の前に観直していたら本当に面白くて泣けました。竹野内豊さんと綾瀬はるかさんの夫婦模様がすごく良かったので、そのくらいのテンションに戻して、もう少し前の火曜10時枠っぽい雰囲気を復活させてほしい。
佐藤:一時期「壁ドン」とか「顎クイ」とか話題になりすぎたのか、いわゆる少女漫画的なシーンが消費され尽くした感はちょっとありますよね。
横川:そこは私たちメディア側にも反省が必要なところ。〇〇キスとか、1つ1つ名前をつけていく、あの現象はもういらない気がしますよね。
佐藤:これはもう本当に趣味の話になってしまうんですけど、キスできるシチュエーションなのにキスしないみたいな、直接的な愛情表現を避けた間接的に愛しさを感じさせるシーンのほうがキュンとしちゃうところがあって(笑)。『着飾る』のときに葉山(向井理)が泣いている真柴(川口春奈)を人目につかないように壁になってあげた場面が、すごく素敵でした。そういうさりげなさに「そうそうこれがキュンだよ」って画面の前で頷きました。
横川:『着飾る』はそのシーンが一番キュンとしましたね。まあでも、TBSの火曜10時でラブコメをやろうとすると、ある程度わかりやすい「キュン」は求められるのかな。
佐藤:『最愛』でいえば梨央と大輝の手が重なったシーンも、キスがなくて正解でした。
横川:あのシーンは非常に正解でしたね。もともとはキスする予定だったけど、新井Pがキスさせないほうがいいと言ったそうですね。じれったいのが逆にいい、今の世の中の空気感の侘び寂びを新井Pは非常によくお分かりになっていらっしゃる。「こういうのがキュンとするんだろ?」みたいな展開を持ってこられると鼻白んでしまうのが、今のラブコメに感じる個人的な課題。最近の火曜10時は、ピュアという意味ではなく、チープな意味での “『りぼん』感”が拭えないので、もう少し世代感を上げてほしいなと。いつまで『りぼん』をやってんねん! みたいな(笑)。
佐藤:そうですね(笑)。夜10時からのドラマですし、キュンの先を期待しちゃいます。
横川:近年だと俳優さんのファンは楽しめるけど、それ以外は途中離脱する枠になってきてしまっている気がするんです。今や恋愛ドラマはSNS上のいわゆる視聴熱を盛り上げるカンフル剤。各局、世帯視聴率ではなく、コア視聴率と視聴熱を狙って恋愛ドラマを作り続けているんだと思うんですけど。そんな中で10月クールは『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(日本テレビ系)の方がピュアな意味での“『りぼん』感”があった。作品の完成度も高く、最終回はTwitterで世界トレンド1位も記録しました。『ハンオシ』は視聴率では勝っていましたが、一番得意としていた恋愛ドラマというゾーンで、視聴者を盛り上げるという点で後塵を拝したのはちょっと反省材料なのかなと。
佐藤:なるほど。ただ視聴率は勝っていることを鑑みると「◯◯キュン」を楽しみにしている視聴者もやはりいるということでもあるんですよね。物語が面白ければ演出は気にしない人もいれば、キャストが良ければ物語の展開は気にならない人もいますし。その枠で期待されたドラマが見られるということ。それもまた多様化したテレビドラマの行き着く先ということなのかもしれないですね。
2022年の現代はドラマでどう描かれる?
ーー1月ドラマは何か気になっているものはありますか?
横川:阿部寛さん主演の日曜劇場『DCU』は観ようかなと思っています。製作費が桁違いな気がしますし、単純に最もゴージャスに作っているからハズレないだろうと。『TOKYO MER』もしっかりできていましたし、TBSは日曜劇場の作品を成功に導くフォーマットを確立できているなと思います。
佐藤:私は『恋せぬふたり』(NHK総合)と『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)が気になっています。『ミステリと言う勿れ』は原作が好きなので、あの世界観をどのように実写化されるのかが楽しみで。そう考えると一時期に比べると、漫画原作は少なくなった気がしますね。
横川:2021年の傾向として『大豆田とわ子と三人の元夫』や『コントが始まる』(日本テレビ系)など、オリジナル作品が好評だった風向きがあったので、もっと作っていこうというノリはあるのかもしれないですね。
佐藤:それと、ファンとして野木さん脚本のドラマがそろそろ観たいところです(笑)。
横川:そうですね。1年以上空いているので。
佐藤:これまで、特に『MIU404』の時にもリアルタイムで時勢ネタを取り入れていたので、今の状況をどう思っているのかオリジナル作品で観たいですね。元の世界には戻らないと思うからそこで何を描くのかと。正義を問うのか、恋愛を描くのか、気になります。
横川:コロナで明らかに現代の人たちの価値観を変容したので、その影響受けて何を作っていくかというのを、この1年は色々な作り手が考えていたんだと思うんです。2021年はその中でも『大豆田とわ子と三人の元夫』がコロナ禍に対するアンサーをドラマで伝えていく、一つのお手本のような作品だったと思います。コロナ禍を通して孤独がすごく打ち出されたからこそ、改めて“1人”というのをどう描いていくか。作品の芯にはコロナがあるけど、世界観としてはコロナは描かずにというのが、テレビドラマの最適解として作られているのを感じました。
佐藤:そうですね。コロナ禍を取り入れていたら『#家族募集します』(TBS系)は成立しないドラマだったですし。ドラマを観る時間くらいは、辛い現実と少しだけ距離を置きたいと感じる人も多いと思います。
横川:あくまで日常の中にある非日常としてドラマを楽しむという意味では、映さなくていい空気感がありますよね。渡辺あやさんの『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)でもマスクは出てきませんが、コロナ禍以降の世相を映していて非常に面白かったです。作家さんとしては『心の傷を癒すということ』を描かれた桑原亮子さんがとても良い作家になると思うので、民放ドラマを描いて民放を早く変えて欲しいなと期待しています。作品数はまだ少ないですけど、朝ドラ『舞いあがれ!』でNHKの看板を任されていて、NHKが育てる気満々の作家さんなのが伝わります。桑原さんは、非常に社会に密接した作品を描かれる方なので、ぜひ名前を覚えておいて欲しい。
佐藤:現代社会への問題提起が色濃く描かれたドラマだと『アノニマス~警視庁”指殺人”対策室~』(テレビ東京系)が、あのタイミングでSNSによる指殺人を描いたのは、チャレンジングだなと感じました。ただ最近は、もうSNSの炎上やYouTuberによる過熱取材のようなシーンは、むしろすでにSNSのステレオタイプのように見えているような気もしていて。もちろん、いまだに酷い誹謗中傷はあるけど、SNSの世界だってアップデートされている部分もあるのでは? とも思っていて……。
横川:『着飾る』でも特に前半はSNS=ネガティブなものという描き方が強くて、そこは少し古く感じました。今ってもっとみんなナチュラルにSNSを生活に取り入れている気がするので。
佐藤:コロナ禍を反映しない世界だとしても、以前の世界を踏襲しているだけになってしまったら意味がないし、どこまで現実とドラマとを組み合わせていくのかがこれからのドラマ作りの難しいところな気がします。新しい生活様式をどうドラマに反映するのか、そのあたりを野木さんに先頭切ってもらって……って、「安易に言うな」って言われちゃいますかね(笑)。
横川:そうですね。野木さんに背負わせ過ぎてしまうのも……(笑)。すでに野木さんはこういうのをどう描くかみたいなオーダーがたくさん来てそうなので、楽しみに待ちましょう。
※両氏が執筆に参加した『脚本家・野木亜紀子の時代』はこちら