『MIU404』は作り手の“本気”が詰まったドラマだった 横川良明×佐藤結衣がその魅力を振り返る

『MIU404』横川良明×佐藤結衣対談

 新型コロナウイルスの感染拡大による撮影の中止、放送延期という未曾有の事態に見舞われた4月クールドラマ。誰もが経験したことのない異例の状況の中、奇しくも現在のわれわれの思いを汲み取り、“ドラマを観る楽しさ”を与えてくれたのが、綾野剛と星野源がダブル主演を務める『MIU404』(TBS系)だった。

 脚本を手がける野木亜紀子を中心に傑作と評判の高い『アンナチュラル』(TBS系)スタッフの再集結ということもあり前評判も高かったが、その期待値を遥かに超えていく熱狂を生んだと言ってもいいだろう。『MIU404』に多くの視聴者が熱狂した理由はどんなところにあったのか。野木亜紀子が脚本を手がけた映画『罪の声』も公開されているいま、リアルサウンド映画部で全話レビューを担当した佐藤結衣氏と、Plus Paraviで全話レビューを執筆していた横川良明氏にその魅力を語り合ってもらった。

作り手たちの“本気”が詰まったドラマ

ーー『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の大ヒット以降、「脚本家・野木亜紀子」の名前は多くの人に知られることになりました。良作を生み出し続けている野木さんの新作、キャスト・スタッフも見事な陣容ということもあり、『MIU404』の期待値は本当に高かったように思います。

横川良明(以下、横川):結果として、見事に高くなったハードルを軽々超えていった一作でしたね。とはいえ、野木さんの手掛けてきた作品が好きな人の中には、第1話を観たときに肩透かしだったと感じた人が一定数いると思うんです。カーアクションの派手さは目を引くものの、物語の構造としてはシンプルで、『アンナチュラル 』の第1話のようなスケール感も見られなかった。さてどうなるんだろうと思っていたら、第2話では絶妙な会話劇から生まれる重厚な人間ドラマ。この振り幅の広さに一気に引き込まれました。

佐藤結衣(以下、佐藤):バランスが絶妙でしたよね。新井順子プロデューサーの「刑事モノがやりたい」という思いのもと、普段ドラマを観ることがない方にも届けることができるのが第1話で、第2話では野木さんの作家性が存分に生かされていました。

横川:チーフ演出の塚原あゆ子さんを含めて、お三方のバランスが本当に素晴らしかったです。野木さんが日本テレビで手がけた『獣になれない私たち』もいい作品でしたが、主人公・晶(新垣結衣)をはじめ登場人物たちを取り巻く設定が“重い”部分もあり、視聴するのが少し疲れるという視聴者も一定数いました。新井プロデューサーは「私は難しいことよくわからない」とインタビューでおっしゃっていたんですが、その視線が野木さんの作家性と視聴者との橋渡しになっていた。新井プロデューサーは、「小学生でもわかるようにしましょう」と野木さんにおっしゃっていたそうですが、その姿勢が『MIU404』の間口の広さに繋がったのかなと思います。

佐藤:確かに。野木さんにインタビューさせていただいたときに、多くの人に届けるエンタメ性と、深く考えてもらいたいというテーマ性の両立が難しいというお話になりました。いわゆる刑事ドラマといえば、エンタメ性の高いものが名作として語られていますが、その中でも『MIU404』は新たな作品として昇華されていたと思います。現実に現在進行形で私たちが知らなければならないことが散りばめられていて、このドラマを通じて事件は今も起きていると私たちに自覚させるギミックが隠されているというか。

横川:第1話から第5話までの並びがすごく良かったですよね。第2話からは犯罪を犯してしまう人物が魅力的で、特に第4話に登場した青池透子(美村里江)に感情移入した人も多かったと思います。視聴者が気持ちを乗せられる人物が、主役である伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)ではないところも新しかったと思います。

佐藤:松下洸平さんや美村里江さんなど、ゲスト出演の方々の演技も素晴らしかったですよね。“容疑者”や“犯人”と呼ばれる前にちゃんと人間としての人生があったことを、彼らの熱演が印象づけてくれました。チーフ演出の塚原さんにお話を聞いたときにも感じたのですが、スタッフの皆さんが役者の方々を本当に信頼しているのが伝わってきました。プロデューサー、演出家、脚本家、俳優、その他のスタッフたちも、全員がそれぞれの仕事を限界までやりきっている。だから、わたしたちライターも「全部受けとめて書いてやる!」という気持ちになったというか(笑)。当たり前なのかもしれないのですが、本当に“全員本気”が詰まったドラマだったように感じます。

横川:その本気がちゃんと視聴者にも伝わるから、「ながら見なんかしてたまるか」になっていきましたよね(笑)。

佐藤:そうなんですよ。何か見落としてるんじゃないかと。記事を書いた後でも、「あ、あれとあれは、もしかしてつながっていたんだな」という。ちょっと加筆したいくらい、って思っていました。

横川:しかも、情報をただ詰め込んでいるのではなく、凝縮してポイントポイントに入れているのが本当に巧みですよね。YouTubeやTikTokだったり、映像に触れることが当たり前になっている動画世代にとっては、情報量が薄いと飽きちゃうんじゃないかと思うんです。編集のテンポもそうですが、『MIU404』はその密度やスピード感がまさに今のドラマになっていたんじゃないかなと。

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