『カムカム』るいの中で反芻する母との記憶 ジョーの「サニーサイド」が呼びおこした過去

『カムカム』るいの中で反芻する母との記憶

「最初からこのクリーニング店の娘に生まれていればよかった」

 来るサマーフェスティバルに備えて、素敵なワンピースを買いに和子(濱田マリ)と出かけたるい(深津絵里)。和子と平助(村田雄浩)の間に子供はいない。ずっと娘とショッピングするのが夢だったと上機嫌にその日のことを平助に語る和子を見て、るいはふとそう思った。『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第46話では、母・安子(上白石萌音)との記憶があらゆる場面で反芻していく。

 彼女がお出かけ用に選んだのは、1962年に流行したシャーベットカラーのワンピース。ヒロイン3人が揃ったメインビジュアルでも着ているものなので、なんとなく今後の彼女にとっての一張羅になっていく気がする。明らかにそれを気に入ったるいもまた、和子と擬似的な母子体験ができたことが嬉しかったのではないだろうか。

 母・安子とは時代や当時の暮らしぶりもあって、そういうことができなかった。それでも、安子はいつも同じ服を着ながら、愛娘のために自分の服をリメイクしていたように思える。ジャズ喫茶「Night and Day」に出入りするようになってから、安子の記憶が断片的に蘇ることが増えたるい。自分の名前の由来も、出身も、全て捨ててきたはずなのに。本来の自分、それを呼び起こす役目を、ジョー(オダギリジョー)が担っているのは明白だろう。

 最初は“宇宙人”でしかなかったジョーの輪郭を、私たちは徐々に捉えることができてきた。渡辺貞夫がバークリー音楽院に留学することになっても、特に羨むこともない。トミー(早乙女太一)と違い、どこか脱力感のある彼だが、レコードを聞いたりトランペットを吹いたりすることだけを考えたような妙な間取りの部屋からは、音楽に対する確かな熱を感じる。

 そんな彼に熱視線を送るのはベリー(市川実日子)。サマーフェスティバルに新しいワンピースを着て登場したるいは、喫茶のオーナー木暮(近藤芳正)に絶賛される。それを面白くなさそうにみるベリーも、この日のためにお洒落をしにきていた。その場にいる人が、みな催しを楽しむために普段よりめかしこんでいる。その光景がすごく素敵だ。先日、和子が言っていたように、それを楽しむことができなかった世代の人がたくさんいるのだから。

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