平井伊都子の「2021年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 学習棄却(アンラーニング)が重要テーマに

平井伊都子の「2021年ベスト海外ドラマ」

 人種差別に抗議し国歌斉唱を固辞したアメフト選手コリン・キャパニック自身も出演する『コリン・イン・ブラック・アンド・ホワイト』で、彼の複雑な出自と聡明さゆえの葛藤をドラマという形で知ると、全ての人の全ての行動を単純な思い込みで系統化することなどできないと気づく。「他人のことをとやかく言いたくなったらいつでも……」このことを思い出すだろう。

 クリンジ・コメディからは、インド発の『カップル崩壊』とマイク・ホワイトがショーランナーを務める『ホワイト・ロータス』。災を呼ぶ言動ばかりの作家と、離婚を決意した妻を描く『カップル崩壊』は、ポリコレ完無視の暴走ぶりに「インドすごい!」と思わずにはいられなかった。

『賢い医師生活』

 秀作揃いの韓国ドラマから『賢い医師生活』を1位に選んだのは、今の世界が必要とする人間関係の極意がテーマであり演出・脚本意図に活かされているから。総合病院とその周辺を写すカメラは、大学時代の同期医師5人の日常を少しずつ切り取る。このドラマの主人公たちが完璧に近い人間に見えるのは、特権を“持つ者”だからではない。人間関係において最も大切なものーー想像力を働かせて患者の診察を行い、家族や同僚、親しい5人組の間でも、言葉にしない・ならない感情を慮り関係を築いているから。同じように、視聴者も2シーズンとインターバル、ドラマ終映後のバラエティ番組を含め21カ月間、想像力を働かせてドラマが明確に描いていない点と点をつなげる楽しみ方を覚えた。世界中で格差と分断が顕在する今、人間関係のギャップを少しでも埋めるには想像力を働かせるしかない。想像力こそが、人間が映画やドラマや文学などから培ってきたもので、わかりやすく全てを見せ、全てを語ってしまう作品からは得られないものだ。

 2位に挙げた『テッド・ラッソ』も『賢い医師生活』と同じく人間関係が中心にある。英米を比較する異文化理解もので、プロスポーツにおけるトキシック・マスキュリニティもテーマになっている。2022年配信予定のS3では、彼らを蝕む人格や文化、呪縛をいかに棄てるかが鍵になるだろう。『賢い医師生活』が描いた過去からの復活と懐メロの新アレンジも学習棄却(アンラーニング)である。学習棄却は、今後の創作物の重要なテーマになっていくような気がする。

■配信情報
『賢い医師生活』
Netflixにて配信中
写真はtvN公式サイトより

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