平井伊都子の「2021年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 学習棄却(アンラーニング)が重要テーマに

平井伊都子の「2021年ベスト海外ドラマ」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2021年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2021年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第11回の選者は、ロサンゼルス在住のライター・平井伊都子。(編集部)

1.『賢い医師生活』S2(Netflix)
2.『テッド・ラッソ』S2(Apple TV+)
3.『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』(U-NEXT)
4.『ロースクール』(Netflix)
5.『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』(ディズニープラス)
6.『ザ・サーペント』(Netflix)
7.『ヴィンチェンツォ』(Netflix)
8.『コリン・イン・ブラック・アンド・ホワイト』(Netflix)
9.『カップル崩壊』(Netflix)
10.『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』(U-NEXT)

2022年以降のテーマは分断・格差から学習棄却へ

 今年からハリウッドの賞レースの投票権を得て米国資本作品を集中的に視聴し再確認したのは、とんでもない数のドラマが作られているということ。その中から10本を選ぶのは至難だった。昨年のTOP10でも韓国ドラマ4本を選出したが、「海外ドラマ枠でなぜ韓国作品?」と思われた方もいただろう。そして2021年、『イカゲーム』を例に挙げるまでもなく韓国ドラマの躍進は疑いのない現象となり、韓国ドラマで10本選出できるほど秀作・意欲作が多かった。その他の地域では、北欧ノワール専門配信のViaplayが北米上陸し、次なる流行の兆しが見える。

『ヴィンチェンツォ』

 『ヴィンチェンツォ』と『ロースクール』は、ずっと強烈な印象を残し続けた。『ヴィンチェンツォ』には、『賢い医師生活』と共にアンサンブル演技賞を授けたい。キャストの誰が欠けてもこの世界観を作ることは不可能だっただろう。ソン・ジュンギが一瞬にしてマフィアの顔に豹変する16話ラストまでの10分は、今年観た中で最も凄まじい演技だった。このシーンを成功に導くために全ての演出・演技が逆算されていたように思う。ケイト・ウィンスレットの演技の最高峰が見られる『メア・オブ・イーストタウン』からも、似たような観賞後感を得た。

『ロースクール』

 司法ものは韓国ドラマの人気ジャンルだが、学園ミステリーの体をとり疑問を投げかけた『ロースクール』は異色の意欲作。ソクラテス式問答を授業に取り入れる刑法の教授が学生に贈る一言「正義でもない法は、最も残忍な暴力だ」は、威信を失った法曹界と私的復讐ものが量産される現状に対するメッセージとなっている。元旦からAmazonで配信になる『怪物』、脳内で3DCGアニメの細胞たちが暴れるハイブリッドドラマ『Yumi’s Cells(ユミの細胞たち)』、酒豪のシスターフッド『Work Later, Drink Now(英題)』など、米国で一足早く配信されている日本未上陸作にも傑作が多い。

『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機』(c)2021 20th Television

 5位の『DOPESICK』と6位の『ザ・サーペント』は、時系列が前後するノンリニア構成が「わかりにくい」との評判も聞かれた。どちらも追う者と追われる者の攻防を明確にするための技巧として時制を操っている。図らずも被疑側に加担してしまう人物もいて、両論併記のような描き方は実話から創作する上での配慮とも受け取れる。70年代バックパッカーの桃源郷だったバンコクが舞台の『ザ・サーペント』は、実在するシリアルキラーの物語を、ジョン・ル・カレの小説のような外交サスペンスに仕上げている。『DOPESICK』はアメリカで大問題になっているオピオイド系鎮痛剤のマーケティング手法を問うドラマ。これらの薬剤は合法で、現在も一般的に流通していることが最大のトリックになっている。

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