『カムカムエヴリバディ』安子の物語が迎えた壮絶な結末 “Hate”に感じる強い憎しみ

『カムカム』壮絶すぎる安子編の結末

 そこからの怒涛の演出。るいが行方不明になっているのを知った安子は、列車に乗って岡山に急ぐ。たくさんの人がるいを探し、その渦中できぬちゃんのお産が始まる。そして雪衣のつわり。「母が子を授かる」という一連のイメージと交差して描かれるのは、残酷極まりない「母が子を失う」瞬間だ。

 すでに列車に乗って岡山に戻り、保護されていたるい。雉真の家で、自分を必死に探していた母親に会うと、「もう来なくていい、二度と会いたくない」と言い、その額の傷をみせながら、安子に伝えた。

「I hate you」

 “Hate”は、実は早い段階で習う簡単な言葉でありながら、それを簡単に使う風習はない。むしろ、強い言葉として使うことはあまり良しとされないため「don’t like」と言い換えることが一般的である。だからこそ、この「Hate」に込められたるいの強い感情が際立つ。

「るいは何よりの幸せです。一緒に暮らせなくてもいい、るいの側にいたい。るいは私の命なんです」

 戦争によって両親を失い、夫を失った安子。唯一残っていた、算太とるいまでを失ってしまった。彼女は、“命”を失ったのだ。呆然と歩く原っぱの向こうにあるのは、川ではないだろうか。そんな彼女を見つけたロバートが抱きしめ、安子はアメリカに行く決意をする。

 親の心子知らず、とは言ったもので。安子が全てるいに悟られないよう彼女のためにやったことが裏目となってしまったのは本当にやるせない。これまでにあった不穏な綻びの数々をこのような形に仕上げる脚本にも、脱帽である。

 そして流れる主題歌の「アルデバラン」は、まるでもう届かないるいに対して安子が語りかけているようで、胸が苦しくなる。曲があけると、安子が泣き崩れた原っぱで、成長したるいが佇んでいた。彼女の物語が、はじまる。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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