『カムカムエヴリバディ』雪衣は「安子編」の裏ヒロイン? 算太と勇との恋の矢印

『カムカム』雪衣は「安子編」の裏ヒロイン?

 昭和・平成・令和の時代に、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘の3世代親子を描くNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。朝ドラ史上初の3人ヒロインが話題となっているが、ここにもう1人の影のヒロインを紹介したい。安子(上白石萌音)がいる雉真家に仕える女中の雪衣(岡田結実)だ。

 雪衣は、良家育ちの上品な女性。安子が大阪から岡山に帰ってきた頃にはすでに雉真家に仕えており、初めは不穏な存在感も漂っていた。しかし、女中としては控えめな性格だが、よく気がつく働き者。戦地から帰ってきた安子の兄、算太(濱田岳)に気に入られ、映画に誘われたり、上着の繕いを頼まれたり、ちょっと回りくどくも積極的なアプローチを受けていた。しかし、それらを雪衣はさらりとかわしていく。なぜなら雪衣は“坊ちゃん”と呼ぶ、勇(村上虹郎)に思いを寄せていたから。

 毎日遅くまで働き、休日は会社の野球部の活動に精を出す勇の身体を心配し、お茶につぶした梅を入れてやるなど、雪衣は健気に勇のことを思い、支えていく。でも、ずっとそばで見てきたからこそ、雪衣は知っていたのだろう。勇の気持ちがどこにあるのかだけではなく、自分と同じ「かなわない恋」がどれだけ辛く、重いのかを。

 勇が千吉(段田安則)から、安子と結婚するように勧められているのを聞いてしまった雪衣はやり場のない思いをどうすることもできずに、へらへらと声をかけてくる算太に「なんであなたたちはこの家にいるのですか」と八つ当たりのように棘のある言葉を投げ、勇に叱られてしまう。だが、それによってなにかがすっきりしたのだろう。別の日に、きついことを言ったことを詫びつつ、安子への思いを吐露する勇を、雪江は「安子さんも、るいちゃんも、坊ちゃんのことを頼りにしてるはずです」と励ます。この瞬間、恋のライバルである安子の影にいた雪衣が、逆境に負けないと決意し、女性としての強さを手に入れたように感じる。勇と話したあとの雪衣の顔は、恋する女の子のものではなく、ちょっとした満足感で溢れているのだ。雪衣は自身の壁をひとつ、乗り越えたのかも知れない。

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