『カムカムエヴリバディ』安子の物語が迎えた壮絶な結末 “Hate”に感じる強い憎しみ

『カムカム』壮絶すぎる安子編の結末

 まさか、こんな悲しいかたちで安子(上白石萌音)の物語が終わりを迎えてしまうなんて。第38話は、未だかつてないほど主題歌「アルデバラン」が胸に刺さり、涙を誘う第1部最終回となった。

 それにしても、多くのことが起きた。しかし、最初から最後まで安子にとってそれらが権外であることが何よりも悲しい理由である。「たちばな」を再建しようと、信用金庫に向かったはずの算太(濱田岳)は失踪。それもこれも、会ったその日から思いを寄せていた雪衣(岡田結実)にアプローチをし続けても、彼女の秘めた想いに気づき笑顔にさせようとチャップリンのような振る舞いで花を渡して一緒に住もうと誘っても、彼女が勇(村上虹郎)と一夜を過ごした、という事実がそうさせた。朝方、彼の部屋からこっそりと、肌艶良い感じで出てきた雪衣。献身的に思っても、無理だった。それどころか、すぐ近くで男と一夜を過ごした想い人の姿を見てしまった彼は、もうその事実から逃れられない。報われない想いを抱えた彼女を笑顔にさせたくて、おどけていた。しかし彼女が微笑むのは、自分以外の男である。街の鏡に映った自分は、単なる“道化”だ。自分で自分を笑って見せる。そして算太は、消えた。

 消えた兄を探しに大阪に行った安子。そして、強い雨が降りしきる、るい(古川凜)の入学日当日に全ては起きた。算太の行方を共に探してくれていたロバート(村雨辰剛)は、倒れた安子を見つけ介抱していた。しかし、安子にとって自分の命は“るい”である。彼女の入学式に間に合わないことに絶望し、「どうしてこんなことに。私はただ、当たり前の暮らしがしたいだけなのに。お父さんやお母さんがしてくれたように、るいを暖かく見守りながら育てたいだけなのに」というような発言をする。

 そこに全ての安子の苦しみと悲しみが集約されているように思える。彼女は菓子屋の娘に生まれ、良い意味で平凡な日常を過ごしていた。あんこの匂いが香る実家で、家族やお店の人たちに囲まれて笑顔で。素敵な男性に出会って恋をして。新しい言語を習って、新しい世界を広げて。戦争が、多くの平凡だった人々を当たり前から切り離した。いや、戦争が起きる前にも、そしていま現在にも自分ひとりが到底立ち向かえない大きな何かによって、ただ奪われるしかない人は大勢いるはずだ。「当たり前」という言葉は、それこそ“当たり前”に使われる。しかし、“当たり前”ってなんだろう。昔も今も、当たり前が“当たり前”だったことなんかないのかもしれない。

 自分を責める安子を抱きしめ、ロバートはついに“Like”ではなく“Love”という強い言葉を用いて想いを告げる。この2人の間にあるものは、きぬちゃん(小野花梨)がすでに勘づいていたものの単純な「恋」ではないようにも思える。お互い、失くした稔さん(松村北斗)と妻が一番の中で、その哀しみを抱えながら寄り添いあえるような「慈愛」に満ちた存在ではないだろうか。「ありがとう、嬉しい」と返す安子。しかし、そこで悲劇が起きた。これまで、安子が徐々に距離を取り、秘密を増やした結果が、こんな形で出てしまうとは。

 るいが、その様子を見ていた。その顔には、6歳ながらに多くの感情を宿している。怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみ。彼女が安子を探しにきたことは、安子がこれまで注いできた愛情や時間の肯定でもある。つまり、安子が一番気にしていたこと、るいにその愛はしっかり伝わっていたのだ。しかしだからこそ、その愛情が親に裏切られたというさらなる強い感情のトリガーとなり、雨がふりしきる大阪の街にるいを駆け出させる。そこで断片的に思い出す、傷に関する思い出。そして、雪衣に言われた言葉。雉真の家に来た時から、幼い彼女の中に積もり積もった「なぜ」に対し、るい自身が一つの答えを出してしまった。

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