『彼女が好きなものは』は神尾楓珠×山田杏奈の表情だけでも観る価値がある
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。クイーンの曲の中では「Good Old Fashioned Lover Boy」が一番好きな石井が『彼女が好きなものは』をプッシュします。
『彼女が好きなものは』
学生時代から現在に至るまで、ほとんど洋楽を聴いてこなかった自分にとって、唯一聴き込んだと言えるアルバムがクイーン『華麗なるレース(A Day at the Races)』でした。『華麗なるレース』の中でも一番好きだったのが、「Good Old Fashioned Lover Boy」。歌詞の意味を知るのは数年から経ってからでしたが、ポップな曲調の中にどこか寂しさと切なさが入り混じり、<Ooh, love, ooh, loverboy>のリフレインがたまらなく好きでした。そんな本楽曲が最高に生かされていたのが、2019年にNHKよるドラ枠で放送された『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』。
浅原ナオトの『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』を映像化した『腐女子、うっかりゲイに告る。』は、原作小説のTrack1(第1章)の通りに、「Good Old Fashioned Lover Boy」が、第1話のメインテーマとして使用されました。主人公・純(金子大地)が紗枝(藤野涼子)に初めて心の一部をさらけ出そうしたときにかかるものの、紗枝の「ゲイなんて現実にそうそういないし」のセリフとともに無音に。この人なら分かってくれるかもの期待感を一瞬で突き放す、純の心を表現した演出に、放送時は震えたのを覚えています。
『腐女子、うっかりゲイに告る。』は個人的ドラマ全史の中でもトップテンに入る位置づけの名作だっただけに、再び同名小説を原作に映画化した『彼女が好きなものは』が発表されたときは、正直戸惑いがありました。ほぼ完璧と言えるあのキャストを越えることはできるのかと。結果として、『彼女が好きなものは』にはドラマとは異なる良さがあっただけでなく、映画版のキャストもこれ以上ないほど完璧と言える布陣でした。
前置きが長くなり今さらな説明ですが、本作はゲイの高校生・純(神尾楓珠)が、BL漫画好きの同級生・紗枝(山田杏奈)に好意をもたれ、付き合うことを選択したことをきっかけに、世界と自分自身と向き合うことになっていくという物語です。
ドラマと映画の違い、それぞれの魅力はこちらの記事(『彼女が好きなものは』が取り入れた新たなアプローチ ドラマ版とは異なる後味に)に詳しく書いていただいているように、映画版にはクイーンの楽曲は登場しません。結果、パンチ力が弱まった部分もなくはないですが、その分、演じる役者たちの魅力、シーンごとの画の美しさは際立っているように感じました(撮影は名カメラマンの月永雄太。青みが強いカットなどは絶品でした)。