『彼女が好きなものは』は神尾楓珠×山田杏奈の表情だけでも観る価値がある

『彼女が好きなものは』俳優陣の熱演光る

 前田旺志郎、渡辺大知、三浦透子、今井翼らのハマり具合もさることながら、やはり特筆すべきは神尾楓珠と山田杏奈の2人です。

 神尾楓珠は現在放送中のドラマ『顔だけ先生』(東海テレビ・フジテレビ系)のコメディ路線でも力を発揮しはじめていますが、葛藤を抱える表情、憂いを帯びた表情は同世代の俳優の中でも抜きん出た魅力があると思います。世界と他者を拒絶したときの絶望を体現した姿は彼にしかできない凄みが凝縮されていました。

 そしてなんと言っても山田杏奈。2021年は本作を含めて5本の映画に出演。昨年末公開の映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』を含めて、高校生役をたて続けに演じていることからも分かるように、作り手たちが今一番ヒロインに起用したい俳優と言ってもいいのではないでしょうか。まさに天真爛漫といった雰囲気を放つ彼女ですが、映画初主演を務めた『ミスミソウ』での芝居が象徴的なように、神尾同様に影をまとう役でこそ力を発揮します。

 本作の純のセリフにあるように、「世界は簡単ではなく、とても複雑」にできています。うれしいからうれしい表情をしているわけではないし、苦しくてもうれしい表情をしているときは誰にでもあるでしょう。好きと嫌いの2択でもなければ、好きの形もひとつではない。そんな現実では当たり前に誰もが理解していることも、フィクションの場合は物語を進めるために、はっきりとした感情に味付けされ、役者もそれを全うすることを求められることが多々あります。でも、本作の2人は、非常に曖昧で移り変わる心の形を見事に表現していました。

 2人が交わす表情の変化を追いかけていくだけでも、映画館で観て損はしない一作です。

■公開情報
『彼女が好きなものは』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、三浦りょう太、池田朱那、渡辺大知、三浦透子、磯村勇斗、山口紗弥加、今井翼
監督・脚本:草野翔吾
原作:浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』(角川文庫刊)
エグゼクティブプロデューサー:成宏基
プロデューサー:前原美野里、宮本綾
音楽:ゲイリー芦屋
企画協力:KADOKAWA
企画・制作・プロデュース:アニモプロデュース
配給:バンダイナムコアーツ、アニモプロデュース
製作:「彼女が好きなものは」製作委員会
2021年/日本/121分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/デジタル/PG12
(c)2021「彼女が好きなものは」製作委員会
公式サイト: https://kanosuki.jp

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