ジェーン・カンピオンの堂々とした到達点 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』にみる“革命の力”

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の“革命の力”

 かつて『赤い河』では、強硬な姿勢や暴力でカウボーイたちをまとめ上げる、ジョン・ウェイン演じる古い価値観の家父長的な“西部の男”と、モンゴメリー・クリフト演じる、新しい価値観を信じる世代の若者とのぶつかり合いが描かれた。その世代間の戦いの末に、彼らは歩み寄り、荒くれた“西部魂”と新時代の合理的な考え方が融和することになる。

 しかし、本作はどうだろう。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、同様に世代間の価値観がぶつかり合うところが描かれるが、それはけして融和や譲歩するような場所へと着地することはない。むしろ“西部魂”、“男の意気地”のようなイメージが、“張り子の虎”のような空疎なものであることを見せつけ、そんなくだらないものが社会のなかで大勢の犠牲者を生み出してきたことを断罪するのだ。

 前述したように、イエスは自分を迫害する者を赦す発言をしたと、新約聖書に書かれている。しかし約2000年の時を経ても世界は、いまだ“犬の力”に満ち、ある人々の魂や命が理不尽に傷つけられている。そんな一人ひとりに、神の子イエスと同じ境地に立って社会の犠牲になれというのは、あまりにも酷ではないだろうか。本作は、そういった状況に立ち向かい打倒する意志を持って、世界の姿を変えようとするのだ。

 それは、優れた感性と社会観、そして内に秘める激しい感情を抱えたジェーン・カンピオン監督の堂々とした到達点であるとともに、“映画”というかたちで現代に現れた、“革命の力”である。

■公開・配信情報
Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
一部劇場にて公開中
Netflixにて、12月1日(水)より独占配信開始
監督:ジェーン・カンピオン
出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディ・スミット=マクフィー
KIRSTY GRIFFIN/NETFLIX (c)2021 Cross City Films Limited/Courtesy of Netflix

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる