杉咲花は共演者の好演をも引き出す 『恋です!』で披露する一貫性のある演技と“主役力”

周囲の好演をも引き出す杉咲花の“主役力”

 あくまでも“演技”でありながら、いかにユキコが「音/声」や「触覚」を頼りにしているのかがありありと伝わってくる。ここに真実味を与えるには、場当たり的な演技プランでは実現できないはずだ。それに本作は「恋」が物語の中心にあるのだから、もちろん彼女には感情表現も求められることになる。身体的な演技アプローチは前述してきたもののみならず、より心情と連動したものが必要とされるはず。身体と心に妙なズレが生じると、途端に嘘くさくなってしまうことだろう。しかし杉咲の演じる“ユキコ像”は一貫しており、ブレることはない。本作がどのような撮影スタイルを取っているのかは分からないが、やはり連続ドラマのため、杉咲自身が完全にこの作品/役のみに集中できる環境ではないものだと推察する。このことも踏まえるとなお、杉咲花という俳優の力の大きさを感じないわけにはいかないのだ。

 このように、若くして主役の力を持つ杉咲だが、座長として作品の先頭を走るだけではない。冒頭で述べているように彼女のすごさは、相手役の杉野をはじめとする周囲の者たちの好演を引き出すことにこそあるだろう。杉咲の演じるユキコとは、自身が誰かに何かはたらきかけるというよりも、誰かのアクションがあり、それに対してリアクションする立場にある役どころのように思う。杉野が演じる森生も、奈緒が演じる姉・イズミもアクションする側。アクションを起こすその多くは、周囲の者たちの方なのだ。そしてこのアクションとは、演じる者によってすべてが異なるもの。これらに的確に反応(=リアクション)することで、各キャラクターの存在はより際立ち、結果としてそれぞれの人物のストーリーが作品のそこかしこに見て取れるように思うのだ。共演者の好演を引き出すことも、主役を張る者としての責務だろう(まず前提として、主役自身が好演を残せる者でなければならないが)。思い返せば、主演を果たした朝ドラ『おちょやん』(NHK総合)でも同じような役回りだった。主役として前を歩くだけではなく、みなを引っ張る“牽引力”。今作はコミカルな一面も強いが、ユキコ役へのアプローチも含め、杉咲に課された責務は大きく重いものなのだろう。

 この2021年は『おちょやん』に続き、実写映画では『妖怪大戦争 ガーディアンズ』で重要な役どころを担い、『メアリと魔女の花』(2017年)以来4年ぶりに声優を務めた『サイダーのように言葉が湧き上がる』ではヒロインの声を演じ上げた杉咲花。今作『恋です!』は評判も上々で、彼女の支持率は上がるばかり。“主役の器”をより大きなものにすることに成功しているのではないだろうか。

■放送情報
『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:杉咲花、杉野遥亮、鈴木伸之、奈緒、岸谷五朗、田辺桃子、細田佳央太、戸塚純貴、ファーストサマーウイカ、堀夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE)、生見愛瑠
原作:『ヤンキー君と白杖ガール』(うおやま/KADOKAWA)
脚本:松田裕子
演出:内田秀実、狩山俊輔
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:森雅弘、小田玲奈、鈴木香織(AX-ON)
主題歌:「こたえあわせ」JUJU(ソニー・ミュージックレーベルズ)
(c)日本テレビ

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