『ブルーピリオド』の没入ポイントは主人公の描き方にあり 声優・峯田大夢との親和性も
「物事を判断する時に、正解に当てはめないと不安になる」。そう思っている人は少なくないはずだ。良いか、悪いか。答えが合っているか、ハズレているのか。自分の中に確固たる軸がなければ、良し悪しで判断してしまうことは多いだろう。実際、筆者自身も例外ではない。しかし、アニメ『ブルーピリオド』を観ていると、もっと自分の思うままに判断をしてみてもいいのだと気付かされる。
2021年10月より放送されている『ブルーピリオド』は、『月刊アフタヌーン』に連載されている漫画作品。単行本の累計発行部数は450万部を突破しており、2022年3月には舞台化もされる人気作だ。同作は、主人公・矢口八虎が絵を描く楽しさを知ったことから始まる。もともとは友人たちと夜な夜な酒を飲み、タバコを吸って騒ぐという生活をしていた高校2年生の矢口。しかし一方で勉強もしっかりこなしており、成績は優秀という“リア充”であった。そんな日々にどこか虚しさを感じていた矢口は、美術部の3年生である森まるが描いた絵を見て心を奪われる。それに感化されたかのように絵の具を混ぜて渋谷の「青」を表現したところ、周りから好評を得たと同時に、生まれて初めて他人と会話できたような感覚を得て美術の面白さに目覚める。それがきっかけとなって美術部に入部し、美術の予備校に通い、東京藝術大学の受験を目指していくというわけだ。現在放送されている第9話までですっかり別人のようになっている矢口だが、元は世渡り上手な不良学生。だからこそ、良し悪しで物事を判断するという気持ちがわかっていたはずだ。実際、不良をやりながらも優等生を演じてきた。親に心配をかけないよう、レールを大きくハズれることなく大学進学できるよう、勉強をしていた。渋谷の絵を描いているときも「好きなものを好きって言うのは怖い」と言っており、一般的な感覚の持ち主なのだろう。だが、絵を描くことに出会って覚醒。「良いか、悪いか」ではなく、「好きか、嫌いか」で動くようになっていったのだ。そして、それが彼の絵の描き方へとつながっていっている。
とはいえ、一気に思考を切り替えるのは難しいもの。矢口も予備校で天才たちに出会い、衝撃を受けていく中で、「なんとなく正しそう」な絵を描いてしまうシーンが多々ある。こういった矢口の人間味あるリアルな部分に共感ができるし、物語の所々でその姿が見えるため視聴者を置いてけぼりにしていない。それこそが、『ブルーピリオド』に没入できるポイントなのかもしれない。