『きのう何食べた?』は美味しくほろ苦い“私たちの日常” 食を通して描かれる思いやりの心

『きのう何食べた?』が描く“私たちの日常”

 劇場版『きのう何食べた?』を初日の映画館で観た。大きなスクリーンに映る、西島秀俊と内野聖陽演じるシロさんとケンジと、彼らを取り巻く愛すべき登場人物たちの優しくて楽しくて美味しい、それでいて時にほろ苦い「日常」の物語に、私たちはたくさん笑い、幸せ過ぎて、時折泣いた。

 「私たち」と言ったのには理由がある。あまりにも観客席の至る所から笑い声がして、時に鼻を啜る物音まで聞こえるものだから、1人で観に行ったのに、1人でいる気がしなかったからだ。多くの視聴者が深夜にテレビの前でホクホクと見つめ、翌日にはどうしても同じ料理が食べたくなってスーパーに走らずにはいられなくなった幸福な深夜ドラマは、老若男女問わず観客みんなで笑ったり泣いたりを共有する映画としても、しっかり成り立っていたのだった。

 劇場版『きのう何食べた?』は、元は2019年4月クールにテレビ東京系「ドラマ24」枠の連続ドラマとして始まり、2020年正月にはスペシャルドラマも放送されたテレビドラマである。原作は、現在も『モーニング』(講談社)にて連載中のよしながふみの人気コミック。監督の中江和仁は、映画『嘘を愛する女』、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)という、テレビドラマと映画、それぞれのジャンルにおける秀作を手掛けた名手である。

 そして、何より注目したいのは、朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)の安達奈緒子が脚本を手掛けているということである。また、視聴者からすれば、主人公2人が、ヒロインの上司と父親役を経た、西島秀俊と内野聖陽演じるシロさんとケンジであるというのも楽しい。西島と内野だけでなく、相変わらずの小日向とジルベールを演じる山本耕史と磯村勇斗の演技巧者ぶりに舌を巻く2時間でもあった。

 劇場版は、ドラマ版最終回第12話と完全に繋がっている。最終回は、正月に賢二(内野聖陽)と共に史朗(西島秀俊)が自身の実家に行く回だった。両親(田山涼成、梶芽衣子)は緊張しながらも懸命に息子と息子の恋人をもてなすものの、同性カップルに対する認識に大きな誤解があることもはっきりとわかる、一見平穏でありながら、少し噛み合わない4人の関係性が描かれていた。さらに、映画版では、その時は表面化しなかった齟齬が、彼らの平穏な日常に波紋を投げかける様が描かれる。

 映画で描かれるのは、2人が「家族」になったその後の物語だ。自分たちの幸せだけでなく、大切な人にとっての大切な人の幸せをも考えなければならなくなってくる。そのどちらも両立できれば幸運だが、そうは簡単にいかないのが世の常で。

 彼らが直面する、家族の問題や、年齢を重ねていくことによって生じる諸問題は、誰にとっても共通する問題だ。「そんなの家に縛られているだけじゃん」と言いきれる若い航(磯村勇斗)にはわからない悩みが、彼らにはある。



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