『カムカムエヴリバディ』第8話は異例の構成 完璧だった「アルデバラン」のタイミング
「何で泣いてるん?」
大阪から岡山までの下り列車。すすり泣く安子(上白石萌音)の前に現れたのは、大阪で別れたはずの稔(松村北斗)だった。
『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第8話では、安子に見合い話が持ち上がる。年が明ければ安子も16歳。祖父・杵太郎(大和田伸也)のようにはっきり言ってしまえば、砂糖の生産会社との政略結婚に安子へと白羽の矢が立ったのだ。母・小しず(西田尚美)の「みんな安子に幸せになってもれえてえ思ようる。じゃけど、何が安子の幸せなんかは安子にしか分からんのじゃからな」という一言に、安子は「かならず今日中に帰ります 心配しないでください」という書き置きを残し、大阪へと向かうのだった。
目的はもちろん稔に会いに。安子の大阪に配達に来たという優しい嘘に、授業は午前中だけという稔のスケジュールが噛み合い、2人の久々のデートがスタートする。モモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)の登場する念願の映画を鑑賞し、稔の馴染みの食堂で蕎麦をすする。それから向かったのは、大和川。岡山の旭川に風景が似ていると稔の手紙にあった川だ。
「Do you see that beautiful sunset?」(稔)
「Yes, I do. I see a beautiful sunset over the river」(安子)
「基礎英語講座」を聴き続けた成果もあり、あの時より遥かに返すスピードも発音も良くなっている安子。何より英語という今よりも背伸びした言語で、稔と2人だけの会話ーー世界にいる。そのことが安子にとっては最も嬉しいことだったはずだ。
そして、それがやがてかけがえのない思い出になってしまうことを安子は覚悟していた。だからこそ最後にと大阪に向かったのであり、叶わない恋であることを安子は理解していたのだ。とめどなく流れる涙。安子を包み込む稔のジャケットが大阪に後ろ髪を引かれる思いを大きくさせる。
そこに現れるのが稔だ。大阪までの配達に小さな鞄一つはおかしいと稔は最初から感づいていた。そんな安子を心配してそっと同じ汽車に飛び乗ったのだろう。諦めたはずの稔が自分を思い追いかけてくれたら。そして、自分を思い泣いている安子を見たのなら。2人の恋は一層燃え上がってしまうに違いない。