吉沢亮、栄一として年齢を重ねるほどに増す魅力 『青天を衝け』は今に直結する異色大河に
それは後々彼自身の言葉によって、彼の心の傷が癒えた後に語られ、きちんと総括されるものだと思ってきたが、語られないままで終わろうとしている。彼が美賀子(川栄李奈)と子供たちに囲まれて第二の人生を楽しそうに生きていること自体は安堵すべきことだ。それでも、そのことに対する違和感を平岡円四郎(堤真一)の妻やす(木村佳乃)が直球でぶつけにいくことで、その「語られていないままの物語」の存在が浮き上がってくる。また、「聞けない男たち」のやるせなさが際立つのである。栄一は、政治の話になると何も言わなくなる慶喜に対し、何度も言葉を吞み込んできた。「上様のため」と仲間と共に命を懸けた喜作は、戦うことを望んでいなかったのだろう慶喜に対し、自身が最後まで戦ったことを恥じ、「合わせる顔がない」と、会うこと自体を己に禁じた。
何も言えない男たちは、総括したくても総括できないモヤモヤを、喜作が言うところの「10年越しの俺たちの横浜焼き討ち」にぶつける。蚕卵紙の外国商人による買い控えに対する売り控え作戦である。死んでいった仲間たちとの思い出を胸に、火を投じる栄一・喜作・惇忠(田辺誠一)の姿に、どうにもならず、それでも前に進むしかなかった彼らの心の中で燻り続けていた炎の揺らめきと、その昇華の様を見た。
本作は、郵便や銀行など、現代の生活の基盤となる様々な物事の成り立ちを興味深く見つめることができる、「今」に直結する異色の時代劇であるとともに、『ハゲタカ』(NHK総合)や『半沢直樹』(TBS系)を思わせる優れた経済ドラマとしても楽しめる、これまでにない大河ドラマだ。イッセー尾形演じる三野村も圧巻だったが、中村芝翫演じる岩崎弥太郎もまた迫力満点。商いの「バケモン」たちのバトルは、まだ始まったばかりである。
■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK