前田敦子&大島優子、“アイドル”イメージ脱却はいつから? 俳優としての転換期を振り返る
2021年も、AKB48の横山由依、乃木坂46の生田絵梨花など人気アイドルたちのグループ卒業が続々と報じられている。気になるのは彼女たちのその後である。元アイドルたちの“進路先”は数あるが、王道のひとつは女優業だろう。
最近でも、乃木坂46でキャプテンをつとめていた桜井玲香が主演映画『シノノメ色の週末』(2021年)で、自分の生き方に悩みを抱えるヒロインを好演。同じく元乃木坂46の伊藤万理華も、主演映画『サマーフィルムにのって』(2021年)で抜群の芝居をみせた。
女優として力を発揮する元アイドルが続々と誕生することで、よりその存在感が際立ってきたのが、AKB48のエースの座に君臨していた前田敦子と大島優子だ。前田は、2022年公開の映画『もっと超越した所へ。』で主演することが発表された。ちなみに10月13日に発売された初のフォトエッセイ『明け方の空』も話題に。AKB48卒業から9年目を迎えた2021年1月、事務所から独立してフリーランスとなり、幅のある活動を展開している。一方の大島は卒業から7年目。NHK連続ドラマ小説『スカーレット』で共演した林遣都と結婚し、NHK大河ドラマ『青天を衝け』への出演も決まった。
現在では「元AKB48」と称されることもほとんどなくなり、ひとりの役者としてしっかり評価されている前田、大島。今回は、彼女たちの充実した昨今の活動について触れていきたい。
前田敦子のすごさは、あえて何もしない演技
前田はAKB48在籍時代から女優としてピカイチの演技力を誇っていた。筆者は今でも、市川準監督が手がけた『あしたの私のつくり方』(2007年)で受けた衝撃が忘れられない。クラスの人気者から転落した少女の感情の挫折をみて、胸が締めつけられた。「こんなに繊細な芝居ができる人だったのか」と感嘆し、「アイドル・前田敦子」以上に、「女優・前田敦子」に注目するきっかけになった。
その後の前田の演技はさらに磨かれていく。彼女のすごさのひとつは、「あえて何もしない演技」だ。前田主演作『もらとりあむタマ子』(2013年)の山下敦弘監督は各インタビューで「ただ立っているだけの芝居が本当はものすごく難しい。でも前田さんはそれができる」と語っていたが、確かに前田は妙に意味付けたり飾り立てたりする動作をおこなわない。
かつて前田にインタビューをしたとき、そのことについて「確かにそういうお芝居を心がけているかもしれません。自分で飾りつけたり、足し算したりはしません。私としてはその方が良いシーンができあがる気がします」と意識的であると語っていた。
映画『葬式の名人』(2019年)では、前田扮するヒロインが、勤務先の工場で流れている製品を見ているだけのシーンが登場する。しかし余計な動作が付け加えられていない分、観る側はいろんな想像がかき立てられる。そう、前田の演技はこちらに「想像させる」のだ。
『もらとりあむタマ子』にはロールキャベツをひたすら食うだけの伝説的名シーンがある。山下監督から「とりあえず食べてください」と指示され、それに従ってひたすらかぶりついたのだという。そうすると山下監督から「前田さんはそうやってロールキャベツを食べるんですね」と言われたそうだ。前田の素がのぞけたのもあるが、その豪快な食べ方ひとつをとってみても、タマ子という女性の背景が見えるのだ(前田にインタビュー時、その話を振ると「だって、切れ目もないロールキャベツなんてかぶりつくしかないじゃないですか」と笑っていた)。
そんな前田は2021年、あらたな名演をみせた。松居大悟監督の『くれなずめ』(2021年)だ。主人公らの同級生で厳格な委員長になりきった前田。ゴミの分別をしない生徒に向かって怒鳴り散らす場面が圧巻で、ブチギレすぎて声のキーがおかしくなっている。これは、前田にしかできない芝居のように感じた。頭に血がのぼって爆発すると人はこうなってしまう、という様子を完ぺきに再現した。