前田敦子はなぜ「作り手」に愛される? 『町田くんの世界』『旅のおわり世界のはじまり』に寄せて
「私のことは嫌いでもっ!! AKB48のことはっ、嫌いにならないでください!!」
言葉選びの強さや、涙まじりに震える声、泣き腫らした強い目で、世間に衝撃を与えた名スピーチ。あまりの強烈さから、今でもそれを前田敦子の「代表作」と認識している人は多いかもしれない。
しかし、その実、彼女を「女優」として評価する声は多い。しかも、心を強く掴まれてしまうのは、ことごとく名監督などの「作り手」たちだ。
例えば、『苦役列車』を観た大根仁監督は、自身のTwitterで「原田知世が登場した時のようなインパクトでした。つまりは映画女優の誕生」と絶賛した。また、『さよなら歌舞伎町』の廣木隆一監督は、「強さと弱さの両極を持ってる人。カメラが顔の近くにあっても、動じない凄さがある」と評している。他に犬童一心、堤幸彦、中田秀夫、黒沢清ら、多くの監督が前田敦子の演技を高く評価し、ラブコールを送っている。
なぜ名監督たちがことごとく前田敦子に惹かれるのか。
そんな彼女の凄さを改めて感じたのが、現在公開中の2作、石井裕也監督が手掛ける『町田くんの世界』と、前田が主演を務める黒沢清監督の『旅のおわり世界のはじまり』だ。
前者は演技経験ほぼゼロの新人・細田佳央太と関水渚の2人が主演で、脇を『Q10』(日本テレビ系)以来となる前田、池松壮亮、高畑充希らが支える。
前田は登場シーンから、とにかく強烈な印象を与える。不自然なまでの純粋さを持つ町田くんを、珍獣のように間近で興味深そうに眺めたり、仏頂面で語り掛けたりしながら、彼に恋をするクラスメイトとの行方をジリジリしながら見守り、妄想を膨らませ、苛立ち、ときに毒づき、荒っぽく励ましていく。
前田がうつるたび、観客はその意外な表情や仕草に驚いたり、吹き出しそうになったりしながら、徐々にそのキャラに惹きつけられていく。