『キリング・イヴ』が多数の映画にもたらす影響 『007』『最後の決闘裁判』から紐解く

『キリング・イヴ』の映画シーンへの影響力

 今年後半に相次いで公開された2本のジョディ・カマー主演作は、いずれもこのヴィラネルというアイコニックなキャラクターを出発点にして見えるのが面白い。

 8月公開の『フリーガイ』はライアン・レイノルズ演じる主人公ガイが、自分がオープンワールドゲームのモブキャラクターであることに気付くアクションコメディ。そんな彼に“目覚め”を与えるのがジョディ・カマーであり、スーパーヒーローのように大立ち回りを繰り広げる彼女はゲーム世界唯一の自由意志を持った女だ。ところが現実世界では同僚の恋心にも気づかないゲームおたくで、アバターに過ぎないガイとのキスに赤面する。『キリング・イヴ』でも見せたカマーのコメディセンスが炸裂しており、芸達者ぶりを堪能できる一作だ。

 続いて10月に公開された『最後の決闘裁判』では監督のリドリー・スコットが『キリング・イヴ』を見てジョディ・カマーを抜擢したと発言している。この映画で彼女が演じるのは14世紀末のフランスに生きる女性マルグリット。彼女は騎士カルージュ(マット・デイモン)の妻だが、夫の戦友である従騎士ル・グリ(アダム・ドライバー)に強姦される。女性は夫の所有物として扱われる時代にマルグリットの告発が取りあわれる事はなく、カルージュは裁きを求めて決闘裁判に挑む。

『最後の決闘裁判』(c)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 マット・デイモン、ベン・アフレック、そしてニコール・ホロフセナーによる脚本が描き出すのは現代の性的暴行事件と社会の無秩序であり、中世からほとんど変わっていない現実に暗澹たる気持ちにさせられる。マルグリットは法廷でさらなる辱めを受け、世間からは嘘の告発者として汚名を着せられる。決闘に挑む夫が守るのは妻ではなく、“所有者”としての自身の名誉だ。彼が敗れればマルグリットには虚偽の告発をした罪として火あぶりの刑が待ち受けている。孤立無援の中、それでも自身の尊厳を守るために立ち向かう彼女はやはり中世只一人の自由意志を持ったヒロインであり、スコットは時代の枠に収まらないヴィラネル=ジョディ・カマーにマルグリットの姿を見出したのだろう(ちなみにマルグリットに泣き寝入りを勧める義母に扮しているのは『キリング・イヴ』シーズン3でヴィラネルの殺しの師匠を演じているハリエット・ウォルターだった)。

 残念ながらウォーラー=ブリッジ、フェネルの離脱した『キリング・イヴ』シーズン3は見る影もない仕上がりに終わっており、シーズン4での終了がアナウンスされている。今年1年のカマーの活躍を思えば、これで彼女が映画界を席巻するのは時間の問題だろう(もちろん、彼女を見るだけでもシーズン3は十分に楽しめる)。ジョディ・カマーの魅力の原点として、そして今年公開された諸作品のサブテキストとしてぜひこの機会に『キリング・イヴ』を楽しんでもらいたい。

■配信情報
『キリング・イヴ』シーズン3 (全8話)
U-NEXTにて配信中
原作:ルーク・ジェニングス
脚本:フィービー・ウォーラー=ブリッジ 
出演:サンドラ・オー、ジョディ・カマー ほか
制作年:2020
チャンネル:BBC AMERICA
(c) Sid Gentle Films

■公開情報
『最後の決闘裁判』
全国公開中
監督:リドリー・スコット
脚本:ニコール・ホロフセナー、マット・デイモン、ベン・アフレック
原作:エリック・ジェイガー(『決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル』)
出演:ジョディ・カマー、マット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレック
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
全国公開中
監督:キャリー・フクナガ
製作:バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン 
脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド、スコット・バーンズ、キャリー・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
出演:ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、レア・セドゥ、ベン・ウィショー、ジェフリー・ライト、アナ・デ・アルマス、ラシャーナ・リンチ、ビリー・マグヌッセン、ラミ・マレック
主題歌:ビリー・アイリッシュ「No Time To Die」
配給:東宝東和
(c)2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.
公式Twitter:https://twitter.com/007
公式Facebook:www.facebook.com/JamesBond007

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