『スター・ウォーズ』を黒澤映画的に描く 神風動画・水野貴信に聞く『The Duel』制作過程
『スター・ウォーズ』と黒澤明は切っても切り離せない関係にある。ジョージ・ルーカスが黒澤の大ファンであることから、ライトセーバーは刀がモデルになっていたり、侍の立ち位置にいるジェダイという言葉の由来が「時代劇」からきていたり。ディズニープラスで独占配信が開始された、日本アニメスタジオと『スター・ウォーズ』による新たな取り組み『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の第1話『The Duel』は、まさに時代劇作品となっている。今回、本作の監督を務めた神風動画の水野貴信に、制作過程について話を聞いた。(アナイス/ANAIS)
「基本的に黒澤作品に出てくる魅力的な脇役を出したいと思った」
――黒澤明監督にインスパイアされた『スター・ウォーズ』を、逆に完全に黒澤明映画的に描くというコンセプトが非常に楽しめました。まずは制作過程について教えてください。
水野貴信(以下、水野):ありがとうございます。僕のところに話が来た段階では、もうすでにオファーをいただいていて。その時点で「時代劇風にいく」というコンセプトもある程度できていて、実際に作る段階になってから参加しました。まず、キャラクターデザインの岡崎能士さんが描いたローニンとドロイドの二人の立ち絵を見て、「かっこいい!」と思いました。静止画だけど、風が吹いていたんですよね。黒澤映画も常に風が吹いて砂埃がたっているので、そのイメージがしっかり結ばれたからこそ「これはいけるな」と思いました。
――ローニンが村に来てから始まる物語も非常に黒澤的でした。
水野:ローニンは映画『用心棒』の三船敏郎をイメージしているキャラクターなんです。そのため動きも落ち着いていて、何食わぬ顔でいる感じにこだわったアニメーションや表情をつけました。あと、茶屋の店主なんですけど、これも『用心棒』の居酒屋の店主を演じた東野英治郎さんのイメージでした。あとは、敵の山賊のトルーパーたちも『七人の侍』に出てきた野武士のような雰囲気、ガラの悪さを意識しています。基本的に黒澤作品に出てくる、魅力的な脇役たちをこの作品に出していきたいという気持ちがあったんですよね。
――日本語吹替版での声優さんの声の出し方にもその片鱗がうかがえました。
水野:そうですね。声優さんたちの演技、キャラクターづけでも黒澤作品の脇役の持つ魅力のようなものを出してもらうよう、注意してやりました。あと、アニメーションより実写を意識して作っているのもあります。
――確かに、川での戦闘シーンの躍動感や体の動きなど実写を意識された姿勢がうかがえます。特にバトルシーンがめちゃくちゃ移動している点が面白いですね。
水野:黒澤映画でも、色々なところで色々なことが起こっていたりするので、そういった面でも移動しながら戦うことを意識しました。あと『スター・ウォーズ』らしさとして、こっちの方で何か戦いがあるけど、それに平行してこちらでも戦いが起こっている、ということをしっかり伝えられるような構成になったんじゃないかなと思います。
――川でローニンとシスの女性が戦うシーンには『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』のダース・モール戦で流れた楽曲が使われるなど、随所にシリーズファンが楽しめる仕掛けがありましたね。
水野:はい、色々あるのですが、川での戦いは『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』でのアナキンとオビ=ワンによる溶岩戦のオマージュでもあります。また、細かいところで言うと、ローニンの相棒R5-D56の背中から出てくる細かいミサイルは、『マンダロリアン』の腕から出るミサイルのようなものだとか、色々ありますね。
“シスvsシス”である理由
――いちファンとして高まる演出に加え、騙し打ちをするという戦い方も非常に興味深かったです。
水野:あの戦いのシーンは、シスの女はローニンがジェダイだと思って戦っている。しかし彼もシスなので、そのシスの卑怯さを出したくて。力で勝てない場合は相手を騙すやり方をしっかり描こうと思いました。
――ちなみに、ローニンがジェダイではなくシスであった理由は何ですか?
水野:代表の水﨑(淳平)と岡崎の「シスvsシスって面白いな」という発想から始まったのだと思います。もともと、シス対ジェダイが基本的に正史で描かれている本流ですよね。しかし、そういった大義名分のある戦いではなく「シスとシスが個人的に出会ったらどうなるんだろう」という部分で描きたかった。実は本作のローニンには村を助けたいから戦うといった名分があるわけでもないんです。ただ単純に個人としてあそこにいて、自分が戦いたいからという構図になっています。“外道vs外道”なんですよ、なので武士道とは真逆の発想で、お互いが卑怯な戦い方をしています。
――なるほど、めちゃくちゃ面白いですね。最後に、少年に今まで倒してきたシスのコレクションでもあるクリスタルを渡すシーンにも、そういったローニンのキャラクター背景が垣間見えるんですね。
水野:そうですね。クリスタルを集めながら旅をしているので、本当は持って帰りたかったんでしょう(笑)。
――彼の寡黙さも含め、全体的な台詞や言葉の説明部分が削がれているからこそ、映像や演出に目がいったのですが、これは意図的だったのでしょうか?
水野:はい、やはり映像で見せたいな、と。台詞がなくても映像だけでわかる作品にしたいとずっと思っていたので、説明的なものは極力省きました。世界の人に楽しんでもらう作品を作りたいと常に感じているので、本作も誰が観てもわかりやすく、楽しめることに重きを置いています。