『キャンディマン』は人種差別の寓話として語られるホラー ジョーダン・ピール節も絶好調

『キャンディマン』は黒人の寓話的ホラー

 ピールはホラー映画にこういった黒人の問題を取り入れる際のアプローチが面白いフィルムメーカーですが、そういった手腕は本作でもかなり発揮されていました。彼の映画に登場する黒人の主人公は、いつも知性や教養が高く、良い生活をしている。社会的に成功しているという特徴がある。そして彼(彼女)は何も知らないまま、自分たち黒人の不遇な歴史を学んでいくことになる。『キャンディマン』もそう。実は、本作は1992年に作られた同名作品のリブート版でありながら、立派な“続編”でもあります。ピールは13歳のときに初めて観たときから、何度も何度も92年版を見返していることを、プロダクションノートで明かしています。ある意味、彼の個人的な映画体験において重要な位置付けにある映画とも言えるでしょう。そういった背景もあるからか、本作はかなり社会派寄りなホラーではあります。

 ただ、しっかりと人は死にまくるし(その映し方のビジュアルも美しい)、鏡の端に「うわっ、いるいる!」とキャンディマンの姿を確認する恐怖感も感じられる。それでも少しストーリーを咀嚼し切れないという方は、是非92年版も観てください。なんと、2021年版の話の中で登場した、キャンディマンを追って気が狂った女・ヘレンが主人公の物語になっているんです。それでようやく、キャンディマンの伝説の全貌を捉えることができる。とはいえ、もし92年版をまだ観たことがないというのなら、それは21年版を観た後にとっておくことをお勧めします。何も知らない方が、新作のプロットツイストを楽しむことができると思うから。そして、作品内容の補完を含め、ピールがどれだけオリジナルに繋がる仕掛けを施したのか、どういった現代性を『キャンディマン』にもたらしたのか、確認してみると何度も本作を楽しむことができるはず。

 人はやるなと言われたことを、ついやりたくなってしまうものです。あなたも映画を観た後、お手洗いの鏡の前でふと、唱えてみたくなるでしょう。彼のその名前を。

■公開情報
『キャンディマン』
全国公開中
監督:ニア・ダコスタ 
製作・脚本:ジョーダン・ピール
出演:ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、テヨナ・パリス、ヴァネッサ・ウィリアムほか
配給:東宝東和
(c)2021 Universal Pictures
公式サイト:https://www.universalpictures.jp/micro/candyman
公式Twitter:@uni_horror
公式Instagram:@universal_eiga
公式Facebook:@universal.eiga

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