『SLAM DUNK』映画化で振り返る“90年代アニメ事情” 名作リメイクの意義とは

 去る2021年1月、映画『SLAM DUNK』の制作が発表された際、多くの喜びの声のなかに疑問の声が混じっていたのも事実だ。「なぜ、今さら?」と。確かに近年アニメ業界では、1990年代のアニメのリメイクが盛んだ。ざっと思いつくだけでも『美少女戦士セーラームーンCrystal』(ニコニコ生放送)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(テレビ東京系)、『ドラゴンボール改』(フジテレビ系)などがあげられる。

映画『SLAM DUNK』(c) I.T.PLANNING,INC. (c) 2022 SLAM DUNK Film Partners

 筆者は、こうした傾向の理由のひとつとして、1990年代に起こったテレビアニメシーンの変化があると考える。 極論してしまえば1990年代前半のアニメシーンは、テレビで放送されるキッズ・ファミリー向けの作品と、マニア向けのOVAの二極化の方向にあった。

 『宇宙戦艦ヤマト』(読売テレビ・日本テレビ系)や『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)を嚆矢として始まった1980年代のアニメブームだが、二作のような社会現象といえるヒット作はその後現れず、1980年代半ばには勢いを失っていった。新規のテレビシリーズも1984年の78タイトルを頂点に減少し、少年・少女漫画の原作モノや、玩具メーカーなどスポンサーの商品販促色が強い作品の割合が増えていく。

 ちなみに1984年には『風の谷のナウシカ』『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が劇場公開されているのだが、こうした作品を好むような層が、キッズ・ファミリー向けのテレビアニメから離れてOVAを支持するようになる。アニメにとってテレビや映画に変わる第3の媒体OVAは、80年代に一般家庭へのビデオデッキの普及により確立した、放送や上映を経由せずに、映像そのものを商品とするビジネスだ。不特定多数の一般層ではなく、各作品の支持層に向けて制作するため自然と内容や映像は先鋭化し、いまだにアニメファンの間で名作と呼ばれるような作品も生まれていった。

 もちろん当時でもテレビシリーズだからクオリティが低い、OVAだからクオリティが高い、と簡単に割り切ることはできない。だがテレビシリーズものは基本的には、スポンサーの商品を売るための宣伝的色彩が強く、現在ほどアニメを観る目が肥えていない一般層に向けたものであったことは記しておきたい。冒頭で挙げた作品たちのアニメが作られたのは、こうした状況のなかだったのだ。

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