有村架純、林遣都ら“家族”が鈴木浩介を翻弄する 現代社会を反映した舞台『友達』

有村架純、林遣都ら「家族」が鈴木浩介を翻弄

 本作にはいわゆる主役という存在が登場しない。9人は基本的に家族単位で行動をし、個々が単独で行動するような瞬間はごくわずかだ。強いていうならば「男」が主役のようなポジションだといえるかもしれないが、彼に“主張”は許されない。認められるのは9人への“同調”だけ。1対9では勝ち目はない。少数派とされる者たちの声が多数派とされる者たちの声にかき消され、いつの間にか“同意”を引き出されるのは現実社会でもよく見かける光景である。かといって、「男」に対して9人の「家族」が優位に立っているというわけでもない。彼らはあくまでも対等なのだ。しかしそれは、“ある角度”から見ればの話。この部屋の外の者たちの視点がこれに当たるだろう。ところが見る角度を変えると、そこには圧倒的なパワーバランスが存在している。男にとって、まさにこれは不条理だ。

 そんななかでもとりわけ目を引くのが、7年ぶりにして2度目の舞台出演となった有村の存在である。映画『花束みたいな恋をした』やドラマ『コントが始まる』(日本テレビ系)などの好演が続き、この2021年は“有村架純イヤー”と呼ぶに相応しい。『姉ちゃんの恋人』(2020年/カンテレ・フジテレビ系)でも共演した林や『コントが始まる』での共演が記憶に新しい鈴木をはじめ、周囲は演劇作品に慣れている者ばかりだが、彼女の力は舞台上でも健在。個々の存在を際立たせるような作品ではなく、この種の作品に出演しているというのが興味深い。あくまでも“一員”として家族のなかの次女という役割に、ひいてはこの作品に収まっているところに、彼女の俳優としての力の深さを感じる。それぞれのキャラクター性が均質化された本作において有村に課された責務は、やがて驚きも与えてくれるだろう。

 さて、この令和の時代に多彩な顔触れによって体現されている「家族」、そして『友達
』。集団のなかで失われる主体性や、曖昧になる善と悪といったものは、他者とのつながりの多くがインターネットに移行するほかないこのご時世では、その傾向を強めているように思う。ある者にとって正常な現実は、またある者にとっては不条理なものであるかもしれないのだ。笑うのと同時に、つい顔がひきつってしまうーー私たちが前にするそんな現実を、本作は舞台上に反映させている。

■公演情報
シス・カンパニー公演『友達』
2021年9月3日(金)~26日(日)
東京都 新国立劇場 小劇場

2021年10月2日(土)~10日(日)
大阪府 サンケイホールブリーゼ

作:安部公房
上演台本・演出:加藤拓也
出演:鈴木浩介、浅野和之、山崎一、キムラ緑子、林遣都、岩男海史、大窪人衛、富山えり子、有村架純、伊原六花、西尾まり、内藤裕志、長友郁真、手塚祐介、鷲尾真知子
公式サイト:https://www.siscompany.com/produce/lineup/tomodachi/

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