『ボクの殺意が恋をした』水野美紀が見せる“黒幕”としての恐怖 物語はクライマックスへ
人と人との信頼関係は、ひとつの「黒」で、それまでの「白」さえも「黒」に変わってしまうものなのだろうか。『ボクの殺意が恋をした』(日本テレビ系)を観ていると、毎回そんなことを考えさせられる。
第9話、詩織(水野美紀)が全ての黒幕と知っても、丈一郎(藤木直人)は「これ以上手を汚させたくない」と自らの罪を暴露してまで、彼女を更生させようとする。柊も、詩織のことを心から憎めずにいる。自分たちに向けてきた顔が、全て嘘だったとは思えないのだ。
だが、詩織に実の兄・武尊(小池徹平)を殺された葵(新木優子)は、柊の考えを理解することができない。柊だって、丈一郎を殺害した(と勘違いしていた)葵に復讐しようとしていたからだ。「私を、殺そうとしたでしょ?」と言われると、柊は何も返すことができない。
確実に、詩織は「黒」だ。客観的に見ると、「どうして憎めないの?」と思ってしまう。だが、オセロのように一気に「白」を「黒」に変えることができないのが、人間の性なのかもしれない。
思えば、柊はずっとその狭間で戦ってきた。葵が犯人だと思っていた時は、「丈さんを殺した奴はどんな人間でも許さない!」と言いながら、初恋の思い出までをも「黒」にすることができず、戸惑っていた。
その一方、本作では「黒」を「白」に変えることの難しさも描かれている。莉奈(松本穂香)が、柊に「(葵のことを)殺したいと思うほど憎んでいたじゃないですか。そんなに簡単に、気持ち切り替えられるんですか?」と問う場面があった。
柊もその思いに悩まされていたのだ。「黒」だと思っていた葵が「白」だったと分かっても、銃を向けたことを忘れることができない。葵の顔を見るたび、本気で殺そうとした日のことを思い出してしまう。葵も、柊のそんな気持ちに気付いていた。
「俺には、このまま葵ちゃんを好きでいる資格なんてないんだ」
「私がいることで、柊くんはこれからもずっと苦しむことになると思う」
お互いに、強く相手のことを思っているのに、一度「黒」になってしまったものは、「白」には戻せないのだろうか。もしかしたら、柊はそれが痛いほど分かっているから、必死に抵抗しているのかもしれない。詩織のことを、本当に「黒」に変えてしまってもいいのか、と。