深夜で人気作続々登場の“不倫ドラマ"に新たな刺客!? 『欲望の住処』の新しさを紐解く

 今や、ワンクールの中に1つも2つも忍ばされている不倫ドラマ。数年前に比べ、現在は主に深夜枠で浮気や不倫を題材とした多種多様な物語が語られてきている。特に今期は先日最終回を迎えた比嘉愛未と竹財輝之助の『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京ほか)を筆頭に、北山宏光主演作『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)、犬飼貴丈&堀未央奈のW主演作『サレタガワのブルー』(MBS/TBS)、そして門脇麦主演の『うきわ ―友達以上、不倫未満―』(テレビ東京系)と、テレビ欄ではあっちでもこっちでも不貞行為が勃発! 世は、不倫ドラマ戦国時代。そんな中、彗星の如く現れたダークホースが、イヤードラマ特化型音声サブスクリプションサービス「NUMA」で配信中のドラマ『欲望の住処』である。本作がとにかく“新しい”。

 橋本マナミを主演に、池田成志、ゆうたろう、盛隆二が出演する本作は、何を隠そう“耳で聴く”作品。つまりラジオドラマのようなもので、小説家であり大学教授を務める夫・真司(池田成志)を献身的に支える妻・恭子(橋本マナミ)がある日、旦那の教務補助・裕也(ゆうたろう)に告白されたことをきっかけに始まる不倫ドラマである。ある意味タイトルのようにストレートな設定で、この不倫ドラマ戦国時代、どの作品もサスペンス調であったり、ゲスさ増し増しであったり、あらゆる趣向で物語に新しさを出していく中で言えば、“古き良き物語”とも言える。しかし、このドラマの何が恐ろしいかと言うと、オールドスクールなのに蓋を開けたらとんでもない設定で話が進んでいくことだ。そう……主人公の妻に浮気される夫は、盲目なのである。そしてそれが舞台装置となり、イヤードラマだからこその仕掛けに見事結びついて、サスペンス色がかなり高いものになっている。

橋本マナミ
池田成志
ゆうたろう
盛隆二
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橋本マナミ
池田成志
ゆうたろう
盛隆二
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 近年、サスペンス系不倫ドラマは先に述べた『ただ離婚してないだけ』のように、とにかく視覚的に強烈な作品が多い。血まみれの床で打ちひしがれる不倫夫、大声で叫び狂気の沙汰で包丁を振り回す不倫相手。どんどんエスカレートしていく映像表現は、もちろん見ているだけでゾッとしてしまうが、裏を返せば“見ているから”ゾッとする。視覚を一切排除した『欲望の住処』は、逆にそれがないため聞き手に想像の余地を与える。見えていないからこそ、怖いと感じるのだ。旦那が盲目であることをいいことに、「裕也くんはもう帰ったよ」と嘘をつき、息を潜めてまだ自宅に残っている裕也と不倫関係に至る恭子。『欲望の住処』というタイトルは、文字通り本作で描かれる禁断の“家庭内不倫”を指しているのだ。それだけでも末恐ろしいのに、自宅が不倫現場になると同時に些細な物音や香り一つで異変に気づかれるという、トラップ畑に早変わりしてしまう。

 私たちはその状況が見えていないという点で、夫・真司と同じ。主人公のモノローグを頼りに情景を理解していくことになるわけだが、だからこそ急に彼女の目の前に、いないはずだった旦那が現れると予想外のことに驚かされてしまう。従来のドラマは不倫現場を実はサレる側がこっそり目撃していたり、電話を盗み聞きしたりするシーンが描かれることがほとんど。そのため視聴者は「バレてるぞ~!」と完全に場を理解して観進めることができるが、本作ではそれが通用しない。バレているのか、バレていないのか。そのスリルを主人公と同じように味わうことになる。

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