【ネタバレあり】『ボイスII』“白塗り野郎”のキャストが判明 唐沢寿明が見せた名演
昔ばなし『桃太郎』をモチーフに、退治された鬼の子どもを描いた有名なコピーがある(2013年度 新聞広告クリエーティブコンテスト 最優秀賞作品)。物語では、鬼退治をした桃太郎が「正義」として描かれ、めでたしめでたしと大団円。しかし鬼の子どもの視点に立ってみれば、桃太郎は憎むべき「親の仇」だ。立場が異なれば、「事象」の見え方は変わり、人の数だけ想いはある。『ボイスII 110緊急指令室』(日本テレビ系)第5話では、改めてそのことを考えさせられた。
「姿の見えない犯罪者」は、樋口(唐沢寿明)を「おまえ」と呼び、攻撃的な口調で責め立てた。しかし正体を明かしたあとには、樋口を「あなた」と呼んだ。身の上を話した秋葉(梶裕貴)は、涙声に震えながら「あなたを恨むのは理不尽か?」と、樋口に問いかけた。
きっと秋葉自身、憎むべき相手を間違えてることは百も承知で、それでも誰かを憎まなければやりきれず、せめて「秋葉雅也」という人間が生きていたこと、味わった苦しみを、世間に知らしめたかったのだろう。だからといって許されるわけではないが、秋葉のこれまでを思えば胸は痛む。
爆弾のスイッチを押す直前、秋葉は穏やかな笑みをたたえていた。復讐を遂行できたからか、自身の命の終わりを定めたからなのかーーそれは彼にしか分からないが、秋葉は何も残さず死んでいった。罪と死を選ぶまで、誰からも守られることのなかった悲しき犯罪者だった。
白塗り野郎の言葉で、樋口の心にも火がついた。傷を負った身体、なおかつ低酸素の状態で井戸をのぼること、その過酷さは想像に難くない。朦朧とし、手足は痺れ、震え、握りしめる力も踏みしめる力もないはずだ。苦しみ喘ぐ声、苦痛に歪む表情に、思わず目を逸らしたくなる。
第5話は、唐沢が見せた井戸のなかでの一人芝居、その痛々しいまでのリアリティで成立していた。ペンライトを付け、眩しそうにしかめた顔、薄まる酸素のなかどうにか発し続けた声の掠れ、無線を地上に近付けるべく、井戸を這いのぼることを決意したときの瞳、その手にこもる力。密室、刻々と迫る命のタイムリミットーーその恐怖を見事、「芝居」で見せた。