MCUにモンスターバース、『ワイスピ』まで ハリウッド大作ユニバース化の背景を探る
現在のフランチャイズで、とりわけユニークな発展を遂げたのは『ワイスピ』シリーズだろう。元々は単独のカーアクション映画として企画され、最初の3作までは試行錯誤と紆余曲折の結果、4作目でオリジナルキャストが再集結。そこから巨大なサーガとして発展していき、今ではアニメーション・シリーズやゲーム化も製作され、人気キャラクター、ホッブスとショーを主人公にしたスピンオフ映画も製作された。半ば、偶発的にサーガ化したような作品だ。しかも、登場人物は超人でもないし、モンスターでもないのだ。
DC映画を擁するワーナーは、他にも強力なユニバースを展開している。1つは、キングコングとゴジラを中心としたモンスターバースだ。巨大な怪獣が一つの世界に存在し、互いに戦うというのはスケールの大きい夢のような展開だ。今年公開された『ゴジラvsコング』で東宝との契約が一区切りしたようだが、今後の展開も期待されている。
『ハリー・ポッター』シリーズは、すでに終わりを迎えたが、「魔法」ワールドは続いている。新たに開始された『ファンタビ』シリーズのほか、HBO Maxで配信するドラマシリーズの計画が進行しているというニュースも出ている。『ファンタビ』は1920年代が舞台だが、この世界観ではそのはるか昔から魔法が存在していたことが作中で言及されている。すでに緻密に世界が組みあがっているので、物語の選択肢は無限にあるだろう。
こうしたシリーズ群の隆盛は、旧来のハリウッド・フランチャイズにも大きな影響を与えた。
フランチャイズの代名詞ともいえる『SW』シリーズは、新3部作としてエピソード7~9を製作。さらに、スピンオフの『ローグ・ワン』にディズニープラスでドラマシリーズ『マンダロリアン』を送り出し、複数のアニメーションシリーズもすでに発表されている。今後も続々とシリーズを拡大していく予定のようだ。こうした動きは、マーベルと同じディズニーの傘下に加わって以降加速している。
『007』シリーズは、基本的に古典的な1本で完結する物語を作り続けているが、ダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドに就任して以降、変化が見られた。クレイグ主演の1作目『カジノ・ロワイヤル』と2作目の『慰めの報酬』はシリーズで初めて連続性のあるストーリーが語られた。
ユニバース作品の楽しさとは
ハリウッドメジャー各社が、ユニバース化に舵を切っているのは、当然それが人気だからだ。それでは、私たちはこういうユニバースものの何を楽しんでいるのだろうか。
こうした傾向の作品群が生まれた背景には、配信番組やHBOなどが高クオリティの連続ドラマを成功させ続けてきたことがある。それらの連続ものを一気見する「ビンジ・ウォッチング」という視聴習慣がアメリカでは根付いているが、それだけ続きが気になり、作品世界に深く没頭することの楽しみを、多くの視聴者が気づいたのだ。
日本人にこの面白さを説明する時は、長期連載マンガに例えるのが最もわかりやすいだろう。マンガの登場人物たちと一緒に長い時を過ごし、彼らと一緒に広大な世界と多くの人物に出会う楽しさと似たような楽しみが、ユニバース作品にはある。
単発の2時間の映画は、2時間限りの短い夢だ。それにはそれの良さがある。だが、悠久の時間を共に過ごせる長期のユニバース作品には、単発の映画にはない、長いからこそ描ける長大な物語を走破したときの快感がある。